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N先生からの手紙 [ひとりごと]

もう10年以上前になるだろうか。
大きな仕事がひと区切りしたのを機に、勤め先を辞めた。
とりあえず週2、3日はアルバイト。そのかたわら、カルチャーセンターに毛の生えたような小さな学校に通いはじめた。

N先生は、その時に講義を受けた先生のひとり。
毎回みっちり予習をして授業に臨むのだけれど、提出物の出来が悪いとみんなの前でこっぴどく酷評されるので、毎回生きた心地がしなかった。針のむしろというか、ヘビににらまれたカエルというか。 たとえがむちゃくちゃな気もしますが。

胃がきりきりするほど張りつめた授業が終わると、たいてい生徒たちは近くの喫茶店に流れた。
N先生も一緒だ。
授業中の鬼みたいな顔(私にはそう見えた!)とはうって変わって、ニコニコしながら生徒たちの他愛のない話に加わったり、好きな本や映画やマンガの話に花を咲かせたり。
そうこうするうちに、1冊のノートが回ってくる。
先生へのメッセージを、全員がそこに書くためだ。
言ってみれば、卒業式に回すサイン帳みたいなもの。今日が最後の授業というならまだしも、何の脈略もなく唐突にノートは回ってくる。それもかなりの頻度で。
だから内容というのも、何の映画がおもしろかったとか、あの店のケーキがおいしいとか。
そういう生徒たちの雑談そのままのメッセージを、先生は大事そうに持って帰るのだった。

数年間で一定の成績をクリアすると、学校から修了証が送られてきた。
先生はいつでも聴講においでと言ってくれたけど(授業料なしで)、やがて会社勤めに復帰したこともあって、学校にはぱったりと行かなくなってしまった。
先生はその後定年を迎え、教壇を去った。

あのころN先生にいじめられたこと・・・いや鍛えられたことは、いまもいろんな形で役立っていると思うので、感謝の気持ちを込めて、年賀状は欠かさずに出している。
一方、先生は年賀状というものを一切書かない主義。
ただし何年かに一度、急に思い出したように封書で返事が届く。今年がその年だった。

私が年賀状に書いたのは、余裕のない日常についての愚痴めいたこと。
N先生の返信には、
「少し外に出て遊びなさい。テーマなんて、ごろごろころがっているのだから」
と書いてあった。
そして最後にひと言、
「とにかく、きみに期待しているよ」

思い出した。何年か前にもこうして元気づけてくれたことを。
公私ともにしんどかった時期、年賀状に書く近況報告にもマイナスなオーラが漂っていたのかもしれない。
そういう年にだけ、先生は返事をくれるのだった。
「期待しているよ」と、くすぐったいひと言を添えて。


N先生に敬意を表して。先生のお気に入り、『めぞん一刻』と『タッチ』。

 めぞん一刻 (1) タッチ (1)

 

 

 

 

響子さんと南ちゃんが好みのタイプなんだそうだ。
共通項がよくわからないんだけど。


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たかち

いい先生ですね!
そんな思い出になるような先生いたかな?羨ましいです!

響子さんと南ちゃん・・・家庭的なとこ?
by たかち (2006-01-17 20:13) 

年賀状のコメントは、普段は安心して微笑ましく読まれていたのでしょうね。
たまに、重い内容ですと心配になり、暖かいお手紙が届くのでしょう。いいな~☆
本当に素晴らしい恩師に巡り合えて、素敵な先生には素敵な生徒が付くのね!

読んでいて、私は専門学校に通っていた頃の事を思い出しました。2年間鍛えられました;
デザインでは毎回時間のかかる課題が出たし、毎回テストする国語の先生は居たし(笑)。
歳をとってから、何か勉強したくなったりしますよね。出来る時には苦痛だったのに(爆笑。
by (2006-01-17 21:57) 

「期待しているよ」のひと事、とても嬉しくなりますね! (^-^)
どこかで、自分に期待してくれている人が「居る」という事実が、心強く思えますよね。

私は、もの凄く落ち込んだ時、ネットのお仲間さんから随分と励まされた経験があります。
言葉って、何も無い心の中に染み込んで来て、頑なな心を潤してくれます。
気持ちのこもった「言葉」って、まるで温かいコーヒーのような、いえそれ以上の「心の栄養剤」になってくれるもの。だから、出来るだけプラスの方向に使いたいと思います。
by (2006-01-17 22:03) 

チヨロギ

>BAKUさん、nice!をありがとうございます♪
by チヨロギ (2006-01-18 22:46) 

チヨロギ

>たかちさん、いい先生なんですけど怖いです!
授業を思い出すと、嫌な汗が出てきます・・・。

家庭的女性ですかー。先生、意外と古風なのかも?
気づかなかったなぁ。情報ありがとう!
by チヨロギ (2006-01-18 22:47) 

チヨロギ

>saraさん、生徒はダメ生徒ですよー。ははは。
期待に応えるにはまだ30年ぐらいかかります^^;
デザインの専門学校というのも課題とか厳しそう!
でもそれが、今のsaraさんの大事な根っこになっているのですね。
おっしゃるとおり、まだまだ勉強が足りないっていう気持ちは雪だるま式に増えていく気がします(苦笑)

私もブログを通してみなさんのコメントに元気づけられたり、考えるきっかけをもらったり、いろいろ刺激をいただいています。
恩返しに、私からもなんとかプラスの「気」を送れたらと思うんですが。。。
がんばります!
by チヨロギ (2006-01-18 22:50) 

てつろう

恩師って感じでいいですね。
いい先生にあまりめぐり合っていませんが
部活の熱血教師にしごかれました。
南チャンがいいですね♪
by てつろう (2006-01-20 21:32) 

チヨロギ

てつろうさん、部活の先生というのも思い出深いでしょうね。
しごかれたぶん、達成感も大きいでしょうし。
わたしは帰宅組だったので、そっち方面の恩師がいません^^;
なので、ちょっとうらやましいですー。
by チヨロギ (2006-01-21 00:17) 

茅ヶ崎住人R

ちゃんと見守っていただいているのですね。
by 茅ヶ崎住人R (2006-01-21 17:35) 

そーすけ

久々にブログを徘徊しています^^;
いい記事に出会えてよかった。
その先生、コミュニケーションていう難しいテーマも教えてくれてるのかな。
とかくぎすぎすしてて、気が重いことが多いところに元気が出ますよね。
自分も響子さん好きだけどタッチはそうでもない。何か気が付かない共通項があるんでしょね。
by そーすけ (2006-01-21 17:39) 

チヨロギ

>Rさん、先生というのは不思議ですね。
ちょっとした変化も見抜いてしまうんですから。
by チヨロギ (2006-01-21 23:25) 

チヨロギ

>そーすけさん、おひさしぶりです(^.^)
そうですね。コミュニケーションって、ただ言葉を連ねればいいというものではなく、相手の真意を読む想像力もなければならないし。でもそれを伝える道具はやっぱり言葉しかないんですよね。
わたしも響子さん好きです。だから共通点がさっぱりわからなくて。きっと先生、気が多いんだわ^^;
by チヨロギ (2006-01-21 23:26) 

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