SSブログ

平川克美『俺に似たひと』 [散読記]

発売されてすぐにAmazonで注文したこの本。
家に届いたら2日で読んでしまい、これはぜひブログにUPしたいなぁと思いつつ、モタモタしていたら2カ月たってしまいました。
相変わらずのトロさですが、まあ気にせずいっちゃいましょう。
だって、いい本なんだもの。

平川克美さんは、『経済成長という病』などの経済書を多く書いていますが、わたしが初めて読んだのは、内田樹さんや小田嶋隆さんとの共著『9条どうでしょう』。
でも今回の本はまったくジャンルが違って、平川さんが父親の介護を綴ったノンフィクションです。
壮絶なはずの毎日を、父が過ごしてきた戦後日本の記憶を背景に淡々と描く文章は、静かに深く心に染みとおり、まるで小説のような読後感を残します。

この本が出版される2年ほど前から、平川さんはTwitterでよく介護生活の日常をつぶやいていました。
母親の死をきっかけに、初めて知る実家の惨状。
冷蔵庫には食べ残しの食材があふれ、台所の棚には使うことのない鍋釜が詰め込まれ、床をドブネズミが走り抜ける。平川さんはそんな実家をリフォームし、介護が必要になった父親とのふたり暮らしを始めます。
仕事場と実家とを忙しく行き来するなかで平川さんが何気なく発信するツイートを読むことは、会社勤めをしながら老母を看る当時のわたしにとっての支えでもありました。
もちろん、父親と息子、母親と娘とでは全然状況が違うはずなんですけど、不思議とこちらの想いを代弁してくれてるような。というより、ときどき自分が書いてるんじゃないかと錯覚するくらい。(笑)
親の「老い」と向き合うこと、それはとりもなおさず、自分の「いま」を見つめなおすことでもあります。






俺に似たひと

俺に似たひと

  • 作者: 平川 克美
  • 出版社/メーカー: 医学書院
  • 発売日: 2012/01/20
  • メディア: 単行本



nice!(11)  コメント(11)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

「絶叫委員会」with「ほむほむ新聞」 [散読記]

ヘンなタイトルが気になっていました。
「絶叫委員会」。
最初に聞いて思い浮かんだのは、歌人・福島泰樹の「短歌絶叫コンサート」でした。
あれと関係あるのかどうか知らないけれど、『絶叫委員会』著者・穂村弘も歌人。

「でも、さっきそうおっしゃったじゃねぇか!」

そんな表紙の言葉に吸い寄せられ、ついふらふらと購入してしまったのですが・・・。
かなりおもしろいですw


絶叫委員会

絶叫委員会

  • 作者: 穂村 弘
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/05
  • メディア: 単行本


集められているのは、はっとする名台詞や、場が凍りつく言いまつがい、感動的にくだらない会話などなど。
著者のあとがきによれば、「偶然性による結果的ポエム」なのだそうです。
たとえば「恋人たちの言葉」の章に出てくる、回転寿司屋で耳にしたカップルの会話。

彼「ウニって本当は宇宙人だったらこわいね」
彼女「わざわざ遠くから来てるのにお寿司にされてかわいそう」

隣で聞いたら、思わず味噌汁を噴き出しそうです。

おもしろい言葉を拾い集めただけじゃなく、その言葉から浮かび上がる状況の考察がまた楽しい。
するするーっと読めてしまうので、お疲れ気味の方に、とくにおすすめですv



先日、筑摩書房から「ほむほむ新聞」が送られてきました。
ほむほむ新聞」とは、『絶叫委員会』の番外編を収録したフリーペーパー。
Twitterでの読者プレゼントに応募したら、まんまと当ててしまいました~( ̄∇+ ̄)v
新聞裏面には幻の装丁の絵も。指人間、コワすぎ!



四つに折りたたんだ新聞のほか、雑誌「ちくま」も同封されていました。


左が「ほむほむ新聞」、右が筑摩書房(お)さんの書いた一筆箋。
書のようなイラストのような、味のある文字だなぁ。

nice!(17)  コメント(23)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

「サッカーが勝ち取った自由」なう。 [散読記]

まだ読んでいる最中なんだけど、モタモタしてると記事を書くタイミングを逸してしまいそうなので、フライング気味にUPしてしまおう。
『サッカーが勝ち取った自由』、すっごくおもしろい本です。


サッカーが勝ち取った自由―アパルトヘイトと闘った刑務所の男たち

サッカーが勝ち取った自由―アパルトヘイトと闘った刑務所の男たち

  • 作者: チャック コール
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2010/05
  • メディア: 単行本

いまサッカーのW杯が開催されている南アフリカで、かつて「アパルトヘイト」という人種隔離政策をとる白人政府によって、有色人種が徹底的に差別されていた時代。
大勢の政治囚が送り込まれたロベン島の刑務所では、苛酷な労働と看守による虐待が日常的に繰り返されていた。
そんななか、受刑者たちは手づくりのボールでサッカーをプレイすることに喜びを見出し、刑務所側に粘り強く要望を出すようになる。
最初は毎週土曜日に30分間だけサッカーをすることを、次にプレイ時間の延長を、さらに自分たちの意志で選手を選びチームをつくることを。
ロベン島内でのリーグ戦をスタートした彼らは、やがて独自のサッカー協会を設立。刑務所側のあらゆる圧力に耐え、政治派閥を超えて一致団結し、サッカーをプレイする自由を勝ち取っていく――というお話。

単に「サッカーがしたい!」と要求するだけでは、すぐに却下され厳しい懲罰を受けて終わるところを、彼らはいかにして作戦を練り、困難な要求を通していったか。その過程を読んでいるだけで胸が熱くなります。
しかも協会はリーグの運営にあたり、FIFAの規定に従って規約をつくり、さまざまな報告書や議事録をきちんと文書に残している。といっても紙は充分に支給されないから、ありとあらゆる代用品を使って、ときにはセメントの袋まで再利用。受刑者たちは自分の紙を喜んで寄付したといいます。
これがすべて、自由を厳しく制限されていた刑務所内で行なわれていたなんて。

政治囚たちにとってサッカーリーグを結成することは、自ら集団を組織化し、いつか自分たちで国を運営するチャンスがめぐってきたときに必要になる力を養うために重要だった。もし自分たちの手に国の運営を任せられる日が来れば、円滑に動かしたい。(中略)基本的なルールを共同で決めたことも重要だったが、それ以上に、異なる政治思想を持つものたちが一緒になって一つのことをやる、ということに意味があった。(pp.80-81)

サッカーを通じて人間としての尊厳を勝ち取った彼らは、組織を運営するなかで派閥を超えて友情を育み、やがて南アの民主化運動を支える大きな力となっていくのです。



この本を知ったのは、白水社のTwitterがきっかけ。
最初は「ふーん」と読み流していたものの、そのあとスポーツジャーナリストの後藤健生と藤島大、さらにコラムニストの小田嶋隆という、ひじょうに信頼する書き手が推薦していると知って、俄然読みたくなってしまいました。
すっかり出版社の思うつぼ。まあ、おもしろかったからいいか。( ̄ー ̄;

『サッカーが勝ち取った自由』以外にも、近ごろなぜか白水社の本を買うことが多いです。
↓ この本もよかったー。


青い野を歩く (エクス・リブリス)

青い野を歩く (エクス・リブリス)

  • 作者: クレア キーガン
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2009/12
  • メディア: 単行本

アイルランドの女性作家による短編集。登場人物の心象風景とアイルランドの自然が溶け合って、心にずしーんと深い余韻を残す文章です。表題作がとくにお気に入り。



[おまけ]

最新の「ランチなう」写真は、四谷「八竹(はちく)」の大阪鮓。
普段のお昼としては若干予算オーバーなんですが、遅ればせながらW杯日本代表1勝祝賀ランチということで、ちょっこし気合入れてみました。


                お茶のおかわり用に出してくれたお急須がかわいかった。

ところでこの「鮓」っていう字、Wikipediaによると “「すし」は「鮨」の字があてられるが、関西では「鮓」が使用され・・・” とのことですが、うちのPCでは「すし」から漢字変換できません。
なんて打ったら出てくるんでしょう?

nice!(22)  コメント(36)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

猫本フェア@千駄木・往来堂書店 [散読記]

この前の休みの日、「谷根千」でおなじみの千駄木へちょこっと行ってきました。
駅から5分ぐらいてくてく歩いて、目的地に到着。


往来堂書店です。

この店を知ったのは、Twitterを始めたのがきっかけ。

私事ですが、うちには老いた母がおりまして、最近あまり具合がよくありません。
体のほうはまあまあなんですが、ものごとの認識がきちんとできなくなってきて、
ちょっとしたことで不安やパニックに陥ったり、妄想モード全開したり。
なんとか病院に連れていこうと、兄妹3人で画策しているところなんですけども。
そんなわけで、勤めに出ている以外の時間の多くを、母と過ごす時間に充てるようになりました。
大切なブログ仲間のみなさんには、すっかりご無沙汰しております。すみません。(ペコリ

と、言い訳はこのへんにして・・・(おい)

いまは、コマ切れな時間の中でも書いたり読んだりできるTwitterで、ひっそりとつぶやく毎日。
ちょうどひと月くらい前のこと、フォローしている(=つぶやきを追いかけている)出版社の中の人たちが、
ひょんなことから“猫本”試合をはじめました。
(経緯をまとめたサイトは、こちら。→ http://togetter.com/li/3614
みなさんが自社の猫本を競うように挙げていくのを見て、おもしろいなーと思っていたら、
今度は河出書房新社の中の人が、リストアップされた本をブクログの「猫本棚」に登録して、
「リアル書店さんにほんとにこんな棚ができたらいいなあ」。
そこで真っ先に手を挙げたのが、猫のまち・谷中の「往来堂書店」だったわけです。


店員さんにお断りして、リアル猫本棚を撮らせてもらいました。


こちらが猫本フェアのパネル。筑摩書房の中の人が、Twitterユーザーの猫アイコンを募って作成したものです。


パネルにぐっと接近。ソネブロ&Twitter仲間、Yuseumさんのアイコンが見えました(=・ェ・=)


入り口にいちばん近いところに猫本棚はあります。
わたしが推薦させてもらった「ジャムねこさん」も、ちゃんと並んでる。よかった♡


肝心のお買い物は、「夏への扉」と、「猫のパジャマ」。あ、カバーで見えないか。
いちばん下にある緑色のは、書店で出している「往来っ子新聞」です。

どこか懐かしい雰囲気に誘われて、地元でもないくせにポイントカードまでつくってしまいました。(笑
また行かなくちゃ。






寒かったので、帰りに「千駄木倶楽部」でホットレモネードカシスを。
レモネードにカシスのジャムがたっぷり入っていて、すっぱおいしかったですv

nice!(24)  コメント(39)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ポジオリ教授と赤めだか [散読記]

石垣島の記事を書くのがちょっと(かなり?)遅れそうなので、
その前に別の話題を少し。

最近ずっと、本屋に行っても食指が動く本がなくて困っていたんですけど、
ブログ仲間のみなさんのおかげで、ひさびさにおもしろい本に出会いました。

ひとつは、『カリブ諸島の手がかり』。

カリブ諸島の手がかり (河出文庫)

カリブ諸島の手がかり (河出文庫)

  • 作者: T S ストリブリング
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2008/08/04
  • メディア: 文庫

ひと月ぐらい前、Yuseumさんのブログで『ポジオリ教授の冒険』の紹介記事を読んだのですが、
詳細な作品解説にとても興味を引かれたので、
まずポジオリ教授ものの1冊目から読んでみようと思ったのでした。
それがこの『カリブ諸島の手がかり』です。

それぞれの内容についてはYuseumさんのホームページに詳しく紹介されていますので、
ぜひそちらを~ d( ̄  ̄) ヾ(^o^;ォィォィ

1920年代のカリブ諸島を舞台にした5作品のうち、
とくに気に入ったのは「カパイシアンの長官」でした。
アメリカ人心理学者ポジオリ教授が、ハイチの為政長官ボワロンに請われて、
反乱軍を指揮するヴードゥー教呪術師のいかさまを暴きに行くというストーリー。
人種や宗教や文化、さまざまな価値観の衝突が物語の背景に描かれていて、
ミステリ以上に小説として読み応えがあります。
一見粗野、じつは鋭い知性をもつ黒人のボワロン長官がまた魅力的なんですよねv

それと、最後に収録された作品「ベナレスへの道」。
ポジオリは持ち前の好奇心から、トリニダード島のヒンドゥー寺院で一夜をすごし、
とんでもない事件に巻き込まれてしまうのですが。
・・・衝撃のラストが待っています[人影]


◆◆◆◆


もひとつは、こちら。

赤めだか

赤めだか

  • 作者: 立川 談春
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2008/04/11
  • メディア: ハードカバー

読む人はもうとっくに読んでいるはずの、この『赤めだか』。
著者の立川談春は立川流の落語家であります。
落語のことはぜーんぜんわからないワタクシですが、
実際に彼の落語を聴いた柴犬陸さんの記事(こちらこちら)を読んでいたので、
やたらと人気のある巧い落語家さん、ということだけは知っておりました。
で、先日ふと思いついて彼のエッセイを買ってみたわけですが・・・。

こんなにおもしろい本だったとは!![目]

高校を中退して17歳で立川談志に弟子入りした談春の、
前座から真打になるまでの修業の日々を綴った自伝的エッセイで、
彼の目から見た談志(ルビは「イエモト」)のエピソードが無茶苦茶おもしろい。
心底、談志に惚れてるんだなあと思いました。
そういう意味では全編、師匠への恋文と言えなくもない。いや、言いすぎか。

最後のところで、いよいよ談春が真打昇進試験に挑むんですけど、
このくだりがまたすごい。そして感動的!
落語になじみのない人にも、兆おすすめですw


◆◆◆◆


本ではないけれど、これもブログを通じての出会いということで。
パリでごはん」の幡地縁さんから、秋のコンフィチュールが届きました。
前回はメロンのジャムとトマトのジャムでしたが(記事はこちら)、
今回はピオーネ・りんごのジャムと、みかんのジャム。



まず、みかんから開けてみました。



完熟の因島みかんをひとつひとつ選別して、
3日間つきっきりでつくったものだそうです。
出来上がったのは、たった12瓶。(すぐに売り切れてしまいました)
フレッシュなみかんの瑞々しさがそのまま生きていて、
すっごくおいしいんですよ~♪
目で舌で味わいながら、ゆっくり楽しみたいと思います(^.^)

nice!(16)  コメント(25)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

図書館という宇宙、あるいは迷宮 [散読記]

ずっと前は、印刷物に何か雰囲気写真を載せたいと思うと、
ふさわしい写真を探しに何度もストックフォトへ足を運んだものでした。
ストックフォトというのは、風景やモノなどの写真を有料で貸し出すところ。
いまはなき世界文化フォトとかオリオンプレスとか、
報道性のある素材だと共同通信とか。
報道写真系は安かったけど、それ以外のところは1点数万円かかるもんだから、
予算の都合上、使いたいだけ使うというわけにはいきませんでした( ̄ー ̄;

ところが、最近はデジタル化と価格破壊が進んだおかげで、
以前の半額ぐらいの値段で、場合によっては無料(!)で、
そこそこのレベルの写真がネットで手に入るようになりました。
大量のポジフィルムをお店のライトテーブルの上に広げて、
目的の写真を丹念に探していたあのころが嘘のようです。

先日も、外国の図書館の写真をネット検索していたところ、
うっとりするような写真を見つけてしまいました。
ストラホフ修道院(チェコ・プラハ)の図書館です。
(写真はクリックで、かなり拡大します)


Theological Hall in Strahov Monastery Library, photo by Andurinha on Flickr


Philosophical Hall in Strahov Monastery Library, photo by Andurinha on Flickr

写真上が「神学の間」、下が「哲学の間」。
「神学の間」の天球儀と天井のフレスコ画といい、
「哲学の間」の壁面を埋めつくすような書棚といい、
あまりの美しさに、くらくらしてしまいます(@_@)

この写真を見て、すぐに思い浮かんだのが『薔薇の名前』。
記号学者ウンベルト・エーコによる、中世の修道院を舞台にした小説です。

薔薇の名前〈上〉

薔薇の名前〈上〉

  • 作者: ウンベルト エーコ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1990/02
  • メディア: 単行本

薔薇の名前〈下〉

薔薇の名前〈下〉

  • 作者: ウンベルト エーコ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1990/02
  • メディア: 単行本


ホームズとワトソンを思わせる修道士ウィリアムとアドソが、
北イタリアの修道院を舞台に、奇怪な連続殺人事件の謎を解くというお話。
迷宮のように入り組んだ文書館、盲目の文書館長、
失われた書物、異端審問と魔女裁判。
キリスト教の暗黒の歴史とオーバーラップするストーリー展開に、
推理小説ふうの謎解きのおもしろさが加わって、
じつに読み応えのある作品です。

で、ここに出てくる立ち入り禁止の写字室や文書館というのが、
まさにストラホフ図書館のイメージなんですよねー。
行ってみたいなぁ、宝くじでも当たったらw

『薔薇の名前』は、ショーン・コネリー主演で映画化もされています。

薔薇の名前 特別版

薔薇の名前 特別版

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: DVD

暗示に満ち満ちた複雑な物語をわかりやすくまとめていて、
これはこれでなかなかのおもしろさ。
ただ、ラストの印象はずいぶん違っていて、
「へ? そーいうことなの??」

結びの言葉は、「薔薇の名前」をめぐる詩の一節なのですが、
その言葉が真に意味するところは、今もって謎であります。



nice!(24)  コメント(43)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

ブラッドベリの3冊と、くるくるウィジェット [散読記]

半年ほど前のこと、大好きなブラッドベリの新作がたてつづけに刊行されました。
1冊は少年小説の名作『たんぽぽのお酒』の続編で、もう1冊は自伝的作品。
続編を読むならまず前作の再読から・・・と本棚を探していて思い出しました。
むかし読んだのは、姉から借りた本だったんですよねー。
ええい面倒だ、このさい自分用に買ってしまおう! というわけで、
清水の舞台から飛び降りる気持ちで(!)豪勢に3冊、まとめ買いをしたのでした。

ところが、思い入れのあるものに限って、なかなかブログに書けない。
ついついUPを後まわしにしているうちに、こんなに月日が・・・orz

そこへ今日届いたのが、Amazonからのお知らせメール。
お気に入りを3D回転させて表示する「くるくるウィジェット」が提供開始されたそうです。
これはちょうどいい! ってことで、ブラッドベリ作品をまとめて貼りつけてみましたv



右下の矢印をクリックすると、本がくるくる回ります。
た~のし~い♪と喜んでいるのはわたしだけ?(笑)

最低6冊以上とのことなので、とりあえず8冊をセレクト。
でもこれ、当たり前といっちゃあ当たり前の話ですけど、
表紙画像のない本は表示できないんですよね。
火星年代記』も『華氏四五一度』も『刺青の男』も表示できないし、
今回いちばん載せたかった新刊、『緑の影、白い鯨』もNG!
筑摩書房さん、なんとかしてもらえないでしょうかー。


◆◆◆◆


まとめ買いしたのは、この3冊です。『たんぽぽのお酒』を読むのは何十年かぶり。
12歳の夏が始まったばかりのある日、主人公のダグラス少年は突然、
自分が「生きている」ことを発見します。
ぼくはほんとうに生きているんだ! とダグラスはおもう。まえにはそれがぜんぜんわからなかったか、わかっていたとしても、ひとつとして憶えていやしない!(中略)
「トム……世界のだれもがね……自分が生きているのを知っているんだろうか?」
(『たんぽぽのお酒』晶文社刊、pp.22-23)

彼の目を通して見る世界は、なんと驚きと神秘に満ちていることか。
そして、いくつもの恐ろしい事件や悲しい出来事のなかで、
「自分もいつか死ななければならない」という真実に突き当たったとき、
夏の一日一日がどんなにかけがえのないものかを知るのです。

『さよなら僕の夏』の舞台は、『たんぽぽのお酒』から1年後の夏の終わり。
理不尽なルールを押しつける教育委員会に反乱を企てるダグラスは、
その構成メンバーである老人たちに戦いを挑みます。
親玉クォーターメイン老人とダグラスの対決、そして和解。
ある意味では少年より老人が主役のようにも見える作品です。
(わたしが年取ったということかしら・・・(^^;)
続編とは思わないほうがいいかもしれません。

そして、『緑の影、白い鯨』。


「緑の影」とはアイルランド、「白い鯨」とはメルヴィルの『白鯨』のことです。
ブラッドベリは33歳のとき、ジョン・ヒューストン監督の映画『白鯨』の脚本家に選ばれ、
監督が住むアイルランドに渡って脚本を執筆しました。
そのときの体験をもとに書かれたのが、この長編小説なのです。

酒と女と馬をこよなく愛し、いつも常識を逸脱した行動をとる監督に、
若きブラッドベリは振りまわされてばかり。
唯一の安らぎは、ハーバー・フィンのパブに集まる気のいいアイルランド人たちと
酒を飲み、おしゃべりをすることでした。

このアイルランド人というのが、じつに魅力的なのです。
雨はいつまでも降りやまず、失業者も多いこの国で、
人々が貧しくても豊かに持っているもの、それが言葉と歌。
彼らが語り継ぐエピソードは楽しく、時に感動的で、
成功だけが人生のすべてではない、と思わせてくれます。

ブラッドベリ・ファンにはおなじみの短編がまぎれ込んでいるのも楽しいところ。
たとえば29章は、『万華鏡』に収録された「国歌短距離ランナー」という短編で、
これを読むとアイルランド人がいかに音楽を愛する民族かがわかります。

訳者の川本三郎さんは、ブラッドベリを訳すのは『万華鏡』に続いて2冊目とのこと。
(「ちくま」の記事はこちら
でもこの『万華鏡』の訳が、わたしはほんとうに好きだったんです。(詳しくはこちら
今回の訳も、言葉の選び方、句読点のリズム、文章のとめ方、どれも心地よかった。
分厚い本ですけど、こなれた訳文のおかげですいすい読めました。
ブラッドベリになじみのない方にもおすすめの一冊です[本]

画像はないですが、下にAmazonのリンクを貼っておきますね~v

緑の影、白い鯨

緑の影、白い鯨

  • 作者: レイ・ブラッドベリ
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 単行本


nice!(15)  コメント(31)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

三谷幸喜本、2冊 [散読記]

一日違いで発売された三谷幸喜のエッセイ本2冊、勢いで買ってしまいました~v

三谷幸喜のありふれた生活6 役者気取り

三谷幸喜のありふれた生活6 役者気取り

  • 作者: 三谷 幸喜
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 2008/03/19
  • メディア: 単行本

いらつく二人

いらつく二人

  • 作者: 三谷幸喜 清水ミチコ
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2008/03/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


朝日新聞連載中、おなじみの『三谷幸喜のありふれた生活』は、
これでシリーズ6冊目。
新聞掲載時に読んでいるのに、やっぱり買ってしまうんですよねー。
三谷さんの仕事ぶりを、まとめて追体験できるから。

今回収録されているのは、2006年4月12日から2007年3月28日までの掲載分です。
この間に上演された舞台は、「戸惑いの日曜日」「エキストラ」「コンフィダント・絆」。
(厳密に言うと「コンフィダント・絆」の上演は2007年4月7日から)
このうちわたしが観たのは「コンフィダント・絆」だけですが(記事はこちら)、
第15回読売演劇大賞 優秀作品賞、第7回朝日舞台芸術賞 秋元松代賞、
第59回読売文学賞 戯曲・シナリオ賞、第58回芸術選奨 文部科学大臣賞など、
数々の賞に輝いたこの作品、ほんとにすばらしい舞台でした。
で、『ありふれた生活6』には特別インタビューとして、
「コンフィダント・絆」で画家を演じた相島一之・寺脇康文・中井貴一・生瀬勝久の4人が、
それぞれの「三谷観」というか、三谷さんへの想いを語っています。

読んでみて感心したのは、三谷さんとこの4人の程よい距離感。
役者と演出家は、あまり親しくなりすぎてはいけないというポリシーを三谷さんは持っています。
わたしも経験ありますけど、友だちに仕事を頼んだり一緒に仕事したりすると、
言うべきことが言えなかったり、逆に甘えが生じたりして、よくない面もあるんですよね。
三谷さんはそういうとこ、ちゃんとけじめをつけている。
学生時代からの長い友人、相島さんさえも、
「普段のつきあいは、まったくないですね」。
三谷さんに友だちが少ない理由は、こんなところにあったんだ・・・って、違うか(笑)

そして「あとがき」には、気になる文章が。

このあとがきを書いている今(二〇〇八年二月)は、映画の仕上げの真っ最中である。完全に監督モードだ。そして四本目の映画が完成した後は、しばらくテレビの世界へ戻ることになっている。(『ありふれた生活6』 P.206)

ってことは、ひさびさに三谷さんの連続ドラマが観られるのでしょうか?
これは楽しみです~[わーい(嬉しい顔)]



もう1冊の『いらつく二人』は、J-WAVEでオンエア中のトーク番組、「DoCoMo MAKING SENSE」の2005年12月から2006年5月放送分を加筆再構成したものです。
出演者は三谷幸喜&清水ミチコ。
この番組についてはちょこっとだけ、《 過去記事 》でふれたことがありますが、
じつのところ全然聞いてません。うわー、ファン失格 (^^;

こちらは『むかつく二人』に続く第2弾のようです。
まだ途中までしか読んでいないのですが・・・。
三谷さんが家族(つまり小林聡美さん)ぐるみでつきあっている唯一(?)の芸能人が
トーク相手のミッチャンというだけあって、
おたがいへの容赦ないツッコミが鋭くておかしくて、
電車の中で読むのはつらいです (笑)
今日わたしは、いったい何人の人に怪しいヤツと思われたのでしょうか。
まあ、いいや。楽しんだ者勝ちですからv

ところで本の冒頭、「最初は楽しかったんだけど段々使わなくなってきた」モノとして、
ミッチャンのエスプレッソマシーンの話が出てきます。
うちの場合、それはイタリア製のパスタマシーン。
デュラムセモリナ粉を買ってきて、毎週のように手打ちパスタをつくり、
時にはそのマシーンで手打ちそばもつくったりして、
局地的大ブームだったのですが。
少しずつ登場の機会が減ってきて、いまじゃどこにしまったのかさえ忘れました・・・orz
ほんとにおいしかったんですけどねぇ (^^;

そんなふうに忘れられたマシーン、お宅にもありませんか?


◆◆◆◆


職場の窓の外の桜。
今日一日で、ずいぶん花が開きました。



ボスがひと言、「塩漬けにしたら旨そう~」。
そう来ますかねぇ、ふつう(笑)


nice!(14)  コメント(22)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

カート・ヴォネガット『母なる夜』 [散読記]

今年4月に亡くなったカート・ヴォネガットの最後のエッセイ集、『国のない男』を読んでから、
ひさびさに再読したくなって本棚から引っぱり出した『母なる夜』。
代表作『スローターハウス5』は、彼が第二次大戦の捕虜として体験した《ドレスデン爆撃》を、
過去と未来を行き来するSF小説的に描いた作品でしたが、
『母なる夜』は同じテーマを視野に入れつつ、SF色のまったくない小説になっています。

    

巻末の訳者あとがきを借りると、

 「第二次大戦のさなかにナチス・ドイツの対米宣伝放送をやりながら、
 一方ではアメリカのスパイとして重大な任務を見事に遂行した男の
 波瀾に満ちた戦後」 (『母なる夜』白水社、p.291)

を描いたのがこの本。

物語は、主人公のハワード・キャンベル・ジュニアが、イェルサレムの刑務所の中で書いた
手記の形をとって進んでいきます。
ニューヨークに生まれ、11歳からドイツに移り住んで教育を受けた彼は、
やがてドイツの劇作家として成功してドイツ人女優と結婚。
まさに幸せの絶頂にあるとき、独米関係が悪化して、
アメリカのスパイ組織に組み込まれることになります。
自分でも意味不明な暗号情報を放送に乗せることで連合国に貢献しながら、
表向きはナチの有能な宣伝放送担当としてナチ幹部の信望を得て、
順調に出世していくキャンベル。
ところが、あまりにも仕事の出来がよかったために、戦争が終わるやいなや、
今度は戦争犯罪の重要な容疑者として追われる身になってしまうのです。

表面上はアメリカへの大逆罪を犯した彼を、「じつはスパイだった」とは誰も証明してくれません。
2つの祖国を失ったまま、ニューヨークの片隅に身を隠す14年間の“煉獄”の日々。
最愛の妻ヘルガと夢見た「二人の国」も、ヘルガ亡き今はどこにもありません。

何度読んでも胸が締めつけられるのは、14年目に得たささやかな友情とロマンスさえも失い、
キャンベルが舗道に立ちつくす場面です。

 わたしは動けなかった。
 罪の意識で動けなくなったのではない。わたしは罪の意識を感じないよう自分に教えていた。
 すさまじい喪失感のために動けなくなったのではない。わたしは物を欲しがるなと自分に教えていた。
 ……
 自分が愛されていないという考えのために動けなくなったのではない。わたしは愛なしで生きてゆけと自分に教えていた。
 神が自分に対して残酷であると考えて動けなくなったのではない。わたしは神にはいっさい期待するなと自分に教えていた。
 どちらかの方向へ動くという理由がわたしに完全に欠如していたという事実のために、わたしは動けなくなった。この長い無意味な死んだ年月のあいだわたしを動かしていたのは好奇心だった。
 今はそれさえも燃えつきた。  (同 pp.249-50)


ヴォネガットの小説は、人間の愚かしさや哀れさを残酷なまでに描きこむ一方で、
彼一流のユーモアが全体を包んでおり、あたたかい読後感を残します。
きっとそれは彼が、ほんとに人間ってどうしようもない生き物だよね、と肩をすくめながら、
心の奥底では人間への、人生への希望を捨ててはいないから。

 

そういえば、エッセイ集『国のない男』のカバーの折り返しには、
彼のこんな言葉が書かれていました。

 唯一わたしがやりたかったのは、人々に笑いという救いを与えることだ。
 ……
 
百年後、人類がまだ笑っていたら、わたしはきっとうれしいと思う。

 

母なる夜

母なる夜

  • 作者: カート・ヴォネガット, 池澤 夏樹
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1984/01
  • メディア: 新書

国のない男

国のない男

  • 作者: カート・ヴォネガット
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2007/07/25
  • メディア: 単行本

nice!(8)  コメント(14)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

引越貧乏 [散読記]

春は引越しの季節。
だからというわけではないけれど、姉が引越しをした。

経験のある方ならご存じのように、引越しというのは大量のゴミが出る。
おまけに姉は、筋金入りの「片づけられない女」である(私も人のことは言えないけど)。
どうでもいいものが捨てられない。捨てられないものの山の中に、どうでもよくない大事な物が埋もれていく。次第に分別は不可能となり、部屋はカオスの様相を呈してくる。

幸い、燃えるゴミ以外のほとんどは引越し屋さんが持って行って処分してくれることになったんだけれど、せっせと運び出すゴミを見ていたら、その量が半端じゃない。引越しの荷物の量と同じぐらいありそうだ。
こんなに処分してくれるなんてありがたいなぁと思っていたら、しっかり割増料金をとられた。やっぱり多すぎたか・・・。

今回、最高の助っ人になってくれたのは義姉だった。
たとえばガムテープが使いたくて、それが隣の部屋に置いてあったとする。
私などの場合は何も考えずにガムテープだけを取りに行って、また帰ってくるだけなのだが、義姉の場合は途中のゴミを拾いながら、足もとに散らばった荷物をちゃっちゃとまとめながら歩いていく。だから極端な話、隣の部屋にガムテープを取りに行って帰ってくる間に、荷造りがひと箱できあがってしまうのだ。
同じ人間なのに、どうしてこうも出来がちがうのか。
と、片づけられない女1号(姉)、2号(私)、3号(母)は感嘆するばかりなのだった。

++++

そんな折に、なんという偶然だろう、職場の資源ゴミ(捨てる本)の中からこんなものを見つけた。

色川武大の『引越貧乏』だ。

ずっと昔に読んだ『狂人日記』という小説の圧倒的な印象は、いまでも忘れられない。
精神を病み、寝ても覚めてもおぞましい幻覚に悩まされる男が、つかの間の幸せを経て破綻していくまでの日々。絶望的な状況と救いのない結末が克明に書かれていながら、読み終えて不思議とそこに救いを感じたのだった――それでも人間は生きていく、深い悲しみをたたえながら。

一転して、『引越貧乏』は痛快なエッセイ集である。
大病で大手術をして九死に一生を得た身だというのに、友人と旅先で超人的な食欲を発揮する「暴飲暴食」に始まって、どこか過剰でバランスは狂っているが愛すべき友人たちが、温かい筆致で描かれている。
表題作「引越貧乏」では、引越しばかりしているからお金が貯まらないという妻の愚痴から、話の成り行きで建売住宅を買わされ、預金通帳を取られ、すっかり妻のペースにはめられてしまう。とはいえ、ひと回り以上年下の妻との「ああ言えばこう言う」のやりとりが、とにかくおかしい。

調べてみるとこのエッセイ集、残念ながら絶版になっているようだ。(古本では入手可)
捨てられる前に発見できてよかった。

 

引越貧乏

引越貧乏

  • 作者: 色川 武大
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1989/07
  • メディア: 単行本

狂人日記

狂人日記

  • 作者: 色川 武大
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09
  • メディア: 文庫

++++

[ご近所の桜&今日のやみつき]

枝垂桜、満開です。

 

こちらは「紫芋けんぴ」。初めて食べました。
細長く切った紫芋を揚げてハチミツをからめた、一種のかりんとうです。
素朴であとを引く味。鹿児島産です。


nice!(15)  コメント(31)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。