「太陽」 [cinema]
終戦記念日だった8月15日を選んで、銀座の小さな映画館に足を運びました。
『太陽』――ロシア人映画監督が、昭和天皇を描いた映画です。
パンフレット。黒い表紙に真っ赤な帯
監督はアレクサンドル・ソクーロフ。といっても、わたしは1作も見たことがありません。
すでに『モレク神』でヒトラーを、『牡牛座』でレーニンを描いており、「個人的な悲劇に苦しむ英雄」を描く映画4部作の、3作目にあたるのがこの『太陽』だとか。
主なキャストは、昭和天皇にイッセー尾形、侍従長に佐野史郎、香淳皇后に桃井かおり。
ここには第二次世界大戦・敗戦前後の昭和天皇の日々が、静かに美しく描かれています。
もちろん、静かに見えるのは映像の上でのこと。地下防空壕での朝食シーンに始まり、降伏の覚悟を語る御前会議、愛する息子への手紙、占領軍総司令官マッカーサーとの会見、そして神格を返上する「人間宣言」まで。天皇は、そして日本は、大きな歴史のうねりの中にあります。
天皇が午睡の中で見る東京大空襲の悪夢。また、GHQ本部に向かう車の中から見る、焦土と化した東京。全体に幻想的な雰囲気が漂うなかで、この2つの光景は鮮烈な印象を残しました。
一緒に映画を見た母は、まさにこの戦火の東京を生き延びた人なのですが、彼女によれば当時の東京は、映画に出てくる廃墟そのままだったそうです。知らない世代から見ると、少しSFチックなんですけど、これが現実なんですよね。
イッセー尾形の演技は、最初少し違和感がありましたが、とてもむずかしい役どころをうまく演じていたと思います。神の役割を背負わされた一人の人間としての苦悩と、昭和天皇という人物が持つ特異な個性と。会話の端々に表われるユーモアも、なかなか味があります。
それから、最後にちょこっとしか出てこない桃井かおり。でも、ある人物の自決をめぐる侍従長と天皇とのラストシーン、その激しい目力でしっかり存在感を示していました。
監督「戦争を、人殺しをなす世界の男たちに怒りを! あたかもそのように二人を見つめてください」(スタッフによる撮影ノートより)
***
この映画、海外ではとっくに上映されて話題を呼んでいながら、日本ではデリケートな題材であるため、公開がむずかしいと言われていました。
やっと公開が決まったと思ったら、東京「銀座シネパトス」と名古屋「シネマスコーレ」の2館のみ。
東京では毎回立ち見が出るほどの盛況だというので、思いきって「ぴあリザーブシート」を予約しました。おかげで行列を尻目に、悠々と入場。
銀座シネパトスに行くのは今回が初めてです。
この映画館がある三原橋地下街って、「○○のおもちゃ」みたいな怪しげなお店も並んでいたりして、ちょっと独特の雰囲気・・・。
それに上映中、何かゴーゴー音がするなぁと思ったら、地下鉄が通過する音なんです。
いやー、びっくり。さすが銀座と言うべきでしょうか。
映画館入り口
映画館に並ぶ人たちの顔ぶれは、年配のご夫婦からサラリーマン、若いグループまで、年齢も雰囲気もさまざま。
意外に幅広い層の関心を集めているようですね。
入場待ちをする人びと
報道によると、銀座シネパトスでは初日と公開後1週間の動員・興行収入記録を塗り替えたそうで、急遽関東地方での拡大ロードショーが決定したとか。
地方での上映決定館も、続々と増えているようです。
テーマがテーマだけに、感じ方は人それぞれだと思いますが、わたしはこの映画、見てよかったと思っています。
『太陽 The Sun』公式サイト http://www.taiyo-movie.com/
「花よりもなほ」 [cinema]
是枝裕和監督作品、「花よりもなほ」。
芸達者な出演者の顔ぶれに興味津々だったうえ、《たかちさんの記事》を読んだらストーリーも楽しそう。これは観に行かねば!
と思ったら、うちのご近所映画館では上映していないことが判明・・・(T_T)
で、免許なしの自分としては電車で行きやすいところ、有楽町マリオンの《丸の内ピカデリー2》まで足を伸ばすことにして、インターネットで指定席を購入した。
じつはオンラインで映画のチケットを買うのは初めてなんだけれど、これほど簡単・便利なものだとは! お金も持たなくていいし、並ばなくていいし。昔の指定席みたいに割増料金がかかるわけでもない。
いやはや、わたしの知らないところで世の中便利になっていたのですね~。
(っていうか、うちのほうの映画館がボロすぎ?)
[cast]
岡田准一(青木宗左衛門) /宮沢りえ(おさえ)/古田新太(貞四郎)/香川照之(平野次郎左衛門)/田畑智子(おのぶ)/上島竜兵(乙吉)/千原靖史(留吉)/木村祐一(孫三郎)/加瀬亮(そで吉)/平泉成(善蔵)/絵沢萠子(お勝)/夏川結衣(おりょう)/國村隼(伊勢勘)/中村嘉葎雄(重八)/寺島進(寺坂吉右衛門)/石橋蓮司(青木庄三郎)/田中哲司(横川勘平)/遠藤憲一(鈴田重八郎)/中村有志(神崎与五郎)/原田芳雄(小野寺十内)/浅野忠信(金沢十兵衛)
[story]
物語は、剣術がからきし弱いへっぴり侍・青木宗左衛門(宗左)の仇討ちを軸に展開する。
宗左は父の仇・金沢十兵衛を追って信州から上京してきたが、なかなか金沢を見つけられずに貧乏生活を強いられ、生活のために寺子屋を開く。
ところが、楽天的な長屋の住人たちや、潜伏中の赤穂浪士、また仇である金沢との出会いのなかで、次第に仇討ちの意味に疑問を感じはじめる宗左。
そして、暮れの押しせまるころ、彼はある決心をする――。
とにかく、キャストがみんな見事に役柄にはまっている。主役はもちろんのこと、たかり屋の古田新太さん、見栄っ張り侍の香川照之さん、悪人顔の大家・國村隼さん、色呆けな叔父・石橋蓮司さんなど、しょうもないけど憎めない人たちを、いかにも楽しく演じている感じなのだ。
とくにすばらしかったのは長屋のセット。
ボロボロに朽ち果てたような長屋は、建てつけが悪くて戸を開けるのもひと苦労、壁が薄くて隣家の話は筒抜け。はずれには共同の厠(もちろん汲み取り式!)もちゃんとあって、スクリーンから臭ってきそうなほど。
この圧倒的にリアルな存在感が、映画の見どころでもあったと思う。
ちなみに美術の馬場正男さん(78歳)は黒澤明監督の『羅生門』をはじめ、数々のTV・映画の時代劇に携わってきた大ベテランである。
町人の小ぎれいな長屋とは明らかに違う、社会の最下層の人たちが住む長屋。しかし住人たちはじつにたくましく、馬鹿な冗談を言い合いながら、毎日をしたたかに生きている。
「貧乏」=「不幸せ」=「憐れむべき存在」という図式はここでは当てはまらない。侍なんて、ちっとも偉かァないことを長屋の連中は見抜いているし、大家に対しても一方的に弱い立場ではなくて、時に逆転したり、対等におたがいを利用しあったりする。
人間貧しいからって、打ちひしがれて生きていると思ったら大間違いなのだ。
弱いことは、強いこと。
そんな価値観のひっくり返しが随所に見られて、すごく痛快な気分だった。
近くの映画館でも上映してくれたら、もう一度観に行くんだけどなぁ。
映画館のロビーには、出演者&監督直筆の色紙を並べたガラスケースがあった。
なかでも目を引いたのは、キム兄(木村祐一)の色紙の言葉。
君、観に来たの?
僕、チャーリー。
なんだか意味不明だけど、孫三郎の雰囲気が出てるかも~!(笑)
「花よりもなほ」公式サイト → http://kore-eda.com/hana/
「明日の記憶」 [cinema]
広告代理店の部長として順風満帆な人生を送っていた男が、50歳を目前にして、
突然「若年性アルツハイマー病」の宣告を受ける。
ゆるやかに、そして確実に消えていく記憶と、家族とのいとおしい日々。
闘病の果て、男がたどり着いた「場所」とは――。
そんな物語を描いた映画、『明日の記憶』を初めて知ったのは、「ほぼ日刊イトイ新聞」内のコンテンツ、《『明日の記憶』とつきあう。》からでした。
根がひねくれ者なので、いわゆる「感動もの」と「純愛もの」は敬遠することが多いのですが、サイトを見ると「おや?」と目を引く名前が。
監督の堤幸彦さんです。
『池袋ウエストゲートパーク』や『トリック』の独特な映像テクニックで有名な堤さんですが、わたしが好きでよく見ていたのは、毎週金曜の夜にテレビ朝日で放送されていた『トリック』の1stシリーズ(2000年)。
じつはこの前番組だった『YASHA』にハマっていて、その流れで『トリック』も見はじめたんです。
だって、『YASHA』ではクールなボディガード役だった阿部寛さんが、新番組では堅物のトンデモ教授に豹変しているんですから!
・・・話をもどします。
このミステリードラマ『トリック』で堤監督は、コミカルなシーンを効果的に挿入しながら、意外とシリアスな題材をきちんと描いてもいました。
そんな堤さんに対して、『明日の記憶』のエグゼクティブ・プロデューサーも務める主演の渡辺謙さんは、真っ先に監督を依頼したといいます。
堤さんが撮るなら、ベタな泣かせ映画にはならないんじゃないか。
そう思ったことと、試写会でいち早くこの映画を観たという《柴犬陸さんの記事》でさらに興味がふくらんで、今日さっそく映画館へ観に行ってきました。
期待にたがわず、いい映画でした。
何度も泣いてしまいましたが、不思議とすがすがしい余韻が。
渡辺謙さんはもちろんのこと、妻役の樋口可南子さんも、とても自然な演技のなかに豊かな感情がこもっていて、最後まで引き込まれました。
あと個人的には、担当医役の及川ミッチーが好きです(笑)。
この映画がとくにすばらしいと思ったのは、表現がべたべたと説明的でないところ。
セリフでも演技でも、もっと引っぱろうと思えば引っぱれるところをスパッと切ってしまう。
そうして表現を研ぎ澄ますことで、かえってシンプルな真実が胸に迫ってきます。
それでも人間は生きていくのだ。
わたしは、ただそれだけを思いました。けっして悲観的な意味ではなく。
『明日の記憶』公式サイト → http://www.ashitanokioku.jp/
『明日の記憶』とつきあう。→ http://www.1101.com/ashitanokioku/index.html
「かもめ食堂」に、すべり込み [cinema]
「かもめ食堂」を観た。
テレビで宣伝を見たときにはなんとなくスルーしてしまったんだけれど、その後《たかちさんのブログ》を読んで、この映画の《原作》が群ようこさんだと知り、急に観たくなってしまった。
幸い近所の映画館で上映されていることがわかり、すっかり安心して数週間が経過。
はっと思い出して調べてみたら、「5月5日で終了」というお知らせが!
大慌てで映画館へすっ飛んでいきましたよ~。
間に合ってよかった・・・。想像していたよりずっと、すてきな作品だったので。
「かもめ食堂」は、ヘルシンキの街角にオープンしたばかりの小さな食堂。
メインメニューがおにぎりというこの店の主は、日本人女性のサチエ(小林聡美)。
がらんとした店内でいつも食器をぴかぴかに磨きながら、お客を待つ毎日が過ぎていく。
やっと訪れた初めてのお客は、日本かぶれの青年トンミ(ヤルッコ・ニエミ)だった。
彼に訊かれた「ガッチャマン」の歌詞を、サチエに代わって完璧に思い出してくれたのが、たまたま書店のカフェで「ムーミン谷の夏まつり」を読んでいた日本人観光客のミドリ(片桐はいり)。訳ありな感じのミドリを、サチエがお礼にと自宅へ招いたことから、ミドリは食堂を手伝うようになる。
やがてかもめ食堂に少しずつお客が入るようになったころ、荷物を紛失して途方に暮れるマサコ(もたいまさこ)が店にやってきて――。
という感じのストーリーなんだけれど、とくべつ大きな出来事が起きるわけではなく、意外な結末が待っているわけでもない。淡々と流れていく時間をそのままフィルムに写しとったような、とても静かな作品である。
それでも最後までだれることなく物語に入り込めたのは、小林聡美さんをはじめとする役者さんたちの存在感あってこそ。
ヘルシンキの落ち着いた街並みや、洗練された店のインテリア、ファッション誌に出てきそうなかわいい小物や衣装の数々。いかにもおしゃれで生活感が希薄になってしまいそうなところを、3人の個性ある女性たちがしっかりと引き締めている。
その生い立ちも事情も最後までほとんど語られることがないにもかかわらず、サチエの生き方、ミドリの想いにはとてもリアリティがあった。
マサコに至っては、境遇も雰囲気もよく似た姉の友人(ちょっと変人)を思い出して、一人でおかしくなってしまったほど。だって髪型までそっくりだし。Yさん、お元気でしょうか。
・・・そういう話じゃなくて。
とくに惹かれたのは、「好きなことをおやりになっていて、いいですね」とマサコに言われたときの、サチエのセリフ。
「やりたくないことを、やらないだけです」
サチエの潔さと強さを象徴する言葉に、はっとした。
「やりたくないことをやらない」って、「やりたいこと」の基準が自分の中になければ言えないこと。
こういうセリフの深みを感じさせるのが、小林聡美さんはじつにうまい。
彼女のような凛々しい人に、いつか自分もなりたいものだ。
無理は重々承知ですけれども。
++++
ところで。
エンドロールで堀越絹衣さんの名前を発見。
『anan』を愛読していた80年代、彼女は憧れのスタイリストだった。
過激すぎず、甘すぎず、デザインに負けない自分のスタイルを持っていた人。
彼女がこの映画のスタイリストだったなんて。どうりでいちいちカッコいいわけだー。納得。
スーツケース型のパンフレット。かわいいけど、持ち手が邪魔をして読みにくいのが難点。
この映画でいちばん大事な小道具、おいしい料理の数々。
上からシナモンロール、おにぎり、豚のショウガ焼き、トンカツ。
ここには写っていないけど、“おまじない”入りのコーヒーがおいしそうだったなぁ。
「かもめ食堂」公式サイト → http://www.nikkatsu.com/movie/official/kamome-movie//
「THE 有頂天ホテル」:なんとまあ、贅沢な [cinema]
まだまだ続く三谷幸喜アワー。
今度は映画、『THE 有頂天ホテル』を観てきました。
制作発表記者会見に小躍りして、予告編と映画チラシを見て興奮し、トラックバックをいただいたRohi-taさんの試写会記事を読んで期待は果てしなく高まり、そしてついに公開の日が。
2時間16分、心から楽しませてもらいましたよ~。
(あらすじは過去記事にも書いたので、ここでは省略します。)
すっごくたくさんのエピソードが輻輳しまくっているんですが、この映画がユニークなのは、メインプロットとかサブプロットといったストーリーの重要性の格づけを、あえてしていないところ。
役所広司さんと佐藤浩市さんをはじめ、誰が主役になってもおかしくない豪華キャストがこれだけそろっているのに、誰一人特別扱いされていないのです。まさに贅沢の極み。
逆に言うと、傍から見ればささやかなエピソードも、当事者なりの「人生の一大事」として大切に描かれている。その意味で、三谷さんらしさが存分に発揮された映画だと思います。
個人的に一番のツボは、総支配人役の伊東四朗さんでした。
年が明けるまでの2時間を経て、みんながそれぞれの希望を見出していくなかで、この人だけがなぜか報われない感じ(笑)。そこがまたおいしいところなんですけれども。
なにか喜劇人の底力を見た思いです。ますますファンになりました。
それと、この映画の音楽について。
「不幸せなシンガー」役のYOUさんが歌う「If My Friends Could See Me Now」はなかなかチャーミングで、そういえばこの人は歌手だったんだなあ、と再認識しました。FAIRCHILDのときより大人っぽくて素敵です。
そしてもう1曲、けっこう大事な場面を担っているのがベルボーイ役・香取慎吾さんの歌う『天国うまれ』。
元ブルーハーツ、元ハイロウズの甲本ヒロトさんがこの映画のために作詞・作曲したという、とてもまっすぐな感じのいい曲なんですが、映画のサントラCD(『THE 有頂天ホテル オリジナル・サウンドトラック』)の曲リストを見ると、どうもこの曲は入っていないらしい。
所属レコード会社の壁でもあるのでしょうか? 惜しいところです。
まあ、それはともかく。
大忙しな展開に目を奪われる一方で、小道具とか特殊メークとか、笑える小ネタも満載です。
三谷作品でおなじみの方々もたくさん出てくるし(後ろ姿にも要注意)。
観にいかれた方は、スクリーンの隅々までよ~くご覧になってくださいね。
「THE 有頂天ホテル」公式サイト→http://www.uchoten.com/index.html
「THE 有頂天ホテル」公開まで、あと2か月 [cinema]
『三丁目の夕日』を観た日は、ちょうど『THE 有頂天ホテル』の前売り券の発売日。
チケット窓口で見つけて、思わず買ってしまいましたー。
来年1月14日公開。すごく待ち遠しいです。
公式サイトはこちら。→http://www.uchoten.com/
三谷幸喜監督作品『THE 有頂天ホテル』の舞台は、50年の歴史を誇る格式高い豪華ホテル。
7つのバンケットホール、室内プールを併設したヘルスクラブ、大都会を見下ろすチャペル、4つのグランド・スイートルームなどを備えた「迷路のような」このホテルで、ホテルマンと宿泊客たちのさまざまなエピソードが繰り広げられます。汚職事件でマスコミに追われる国会議員、夢を捨てて田舎に帰ろうとする歌手志望のベルボーイ、自信喪失で死にたがる演歌歌手など、彼らはみなそれぞれの不運や挫折に直面しています。
そして、時は大晦日。年越しカウントダウンパーティーまでの怒涛のような2時間のなかで偶然の出来事が重なり合い、彼らの「ダメダメだった」人生が、ふたたび輝きはじめる。そんなストーリーです。
↑チケットと一緒にもらったチラシ。ピンボケですみません。
予告編も観ました。「ノンストップエンターテイメントムービー」と銘打つだけあって、なかなかスピード感あふれる展開。ストーリーは全然わからないんですけど(苦笑)、なんだか大変なことになってるという切迫した臨場感だけは伝わってきました。
このチラシにも写ってますが、トナカイ(?)のかぶりモノをして子羊のように微笑んでいたオダギリジョーの姿に釘づけです。筆耕係の彼に、いったいどんなエピソードが?
「ALWAYS 三丁目の夕日」 [cinema]
昨日は、前から「絶対観る!」と勝手に宣言していた映画、『ALWAYS 三丁目の夕日』を観てきました。
原作は小学館・ビッグコミックオリジナルで1974年から連載されている『三丁目の夕日』。昭和30年代の東京の下町を舞台に、人情味あふれる日本の風景を独特のタッチで描いたものです。学生のころ、人に借りて何回か読んだ記憶があるけど、連載開始から30年以上経ったいまも連載中とはびっくり!
この映画で話題なのが、昭和33年の東京の町並みを再現したCG映像。
昭和33年というのは東京タワーが竣工した年で、少しずつ立ち上がっていくタワーが、物語の舞台となる夕日町三丁目の遠景にいつも見えています。この東京タワーはもちろんのこと、大通りを走る都電や上野駅の外観・構内、町を歩く人々に至るまで、あらゆる場面でふんだんにCGが使われているようです。
ただ、個人的な印象は、「本物と見分けがつかないほどの精巧な技術に感心した」というのとは少し違います。むしろ、ここに映っているさまざまなモノが作り物だということは、冒頭のヤモリのシーンから強く意識させられました。その「作り物感」は最後までずっと消えないのだけれど、だからこそ作り手の想いとか世界観が純粋に伝わってきて、作品世界に心地よくひたることができたような気がするのです。
三流小説家の吉岡秀隆さんから氷屋のピエール瀧さんまで、役者さんたちも芸達者ぞろいで申し分なし。とても愉快で温かくて、気持ちよく泣ける映画でした。
パンフレットの裏表紙。このシーンもほとんどの建造物とエキストラがCGなんだそうです。あと都電も。
綴じ込みでついている、昭和33年当時の来館者用プログラムの復刻版。
このパンフレット、昭和33年頃の世相や映画のメイキング話なども楽しくて、700円にしてはなかなか盛りだくさんな内容。映画が100円でビールは1本125円という理不尽(?)な物価にも驚いたり。
当分はこの1冊で、おとぎ話の余韻が楽しめそうです。
『ムトゥ』をリメイクするとしたら [cinema]
ゆうべ、寝る前にふとテレビをつけたら、ちょうどこれが始まったところでした。
そこから3時間弱の大長編を観ていたら明け方になってしまうので、今回はパスしましたけど、この映画大好きなんです。
主役の“スーパースター”ラジニカーントの、おじさんらしからぬ激しいダンスと悩殺ウィンク。
粘っこいマサラ・テクノ音楽と、象も踊りだす超豪華ミュージカルシーン。
恋愛ありアクションあり、それでいて意外と壮大なストーリー。
アクが強いので好みにもよるかと思いますが、わたしの場合は冒頭に「スーパースター・ラジニ」のロゴがどかーんとアップになるところから、全編笑いっぱなしです。おそらく本国インドの方々とは笑うツボがずれていますが……。
この『ムトゥ 踊るマハラジャ』は10年前のインド映画ですが、今年の夏に東ハトから、ムトゥとのコラボレート・スナックが出ていたんですね。
写真右で妖しく微笑むのが、かのラジニカーントでございます。
わたしは残念ながら食べたことがないんですけど、この「ガラムマサラ」、42種のスパイスを組み合わせたインド風のスパイシーなスナック菓子だそうです。
東ハトのホームページには「攻略マニュアル」と称して、けっこう親切な映画紹介(注:商品紹介ではありません)が出ています。映画に興味のある方、ストーリーや見どころはこちらでご覧ください(って、無責任だなー)。
さて、ゆうべテレビを観ていて思い出したのが、去年のNHK紅白歌合戦の「マツケンサンバII」です。100人を超える腰元ダンサーズとマツケンが歌い踊る絢爛豪華なシーンと、あの色っぽい流し目。『ムトゥ』をリメイクするなら、主役は絶対この人でしょう!
彼ならバタくさいミュージカルもお手のものですし、アクションシーンにはぜひともチャンバラをとり入れていただきたい。「日本のラジニ」としては申し分ないと思います。松平さん、いかがでしょう?
「THE 有頂天ホテル」で気になる人 [cinema]
先週の三谷幸喜さんのコラムで『新選組!』続編がたった90分と知り、すっかり意気消沈していたわたしですが、今朝のテレビで三谷さんの監督する映画『THE 有頂天ホテル』の出演者会見を見て、期待以上の豪華な顔ぶれに少し機嫌を直しました。三谷さん曰く、「大河ドラマができるぐらいのメンバー」がそろったとか。
公式ホームページでは、三谷さんの動画コメントとともにキャストや人物相関図が見られます。
[キャスト]
役所広司 松たか子 佐藤浩市 香取慎吾
篠原涼子 戸田恵子 生瀬勝久 麻生久美子 YOU オダギリジョー
角野卓造 寺島 進 浅野和之 近藤芳正 川平慈英 堀内敬子 梶原 善 石井正則(アリtoキリギリス)
原田美枝子 唐沢寿明 津川雅彦 伊東四朗 西田敏行
個人的には、ひさしぶりの梶原善さんが楽しみ。
わたしはテレビでしか観たことがないんですけど、『王様のレストラン』のパティシエとか、『合い言葉は勇気』の義助とか、三谷さんのドラマで脇を固める重要な役者さんだと思うので。
もうひとつ気になるのは、オダギリジョーの役どころ。
「筆耕係 右近」って、一体なに?
「あまりに地味な仕事のため、その存在はホテルマンでも知らない者の方が多い」って……。
謎の木彫り人形をつくっていた斎藤一を思い出してしまうんですけど??
上映終了間際、映画「コーラス」を観る [cinema]
急に仕事が空いたので、久しぶりに映画でも観ようかとネットで検索してみた。
希望としては、
・映画館が遠くないこと(←行き帰りで体力消耗したくないから)
・シリアスで重いのはパス(←考え込む知力体力がないから)
・超人気映画もパス(←早くから並ぶor立ち見する気力がないから)
映画好きにはありえない脱力的な条件設定ですね。
この厳しい条件を見事クリアしたのは、近所の映画館であと数日で上映終了する
『コーラス』というフランス映画。
紹介記事には「『ニュー・シネマ・パラダイス』のジャック・ペラン製作」とある。
役者さんの名前を見たら誰も知らないけど、まあいいか。
……あらら、不覚にも感動してしまいました。
『ニュー・シネマ・パラダイス』というよりは、好きなことを誰かに認められて
才能を花開かせる少年、そのえもいわれぬ幸福感が胸に伝わってくるところが、
大好きだった『リトル・ダンサー』を思い起こさせる映画だった。
舞台はフランスの片田舎にある寄宿学校「池の底」。
戦後の貧しさのなかで親と離れ、寂しさと鬱憤を晴らすために悪さばかりする
子どもたちと、それを過酷な体罰で締めつける校長先生。
そこへ冴えない感じの音楽教師が赴任してきて、合唱隊を結成し、
やがて子どもたちや他の先生の心を開いていく、というストーリーである。
見どころ(聞きどころ)はなんといっても少年たちのボーイソプラノ。
なかでも音楽教師との出会いで人生を大きく変えるピエール役のモニエ少年。
悲しい目とあまりにも美しい歌声に泣きそうになった。(すいません、
本当は泣きました。)
ありきたりと言えばありきたりの話だが、こういう映画はかなり好きなほうだ。
子どもが描かれる作品って、子どもの感受性に胸を打たれるだけではなく、
彼らをとり巻く大人たちの希望とか野心とか、大きく言えば人生との向き合い方が
鏡のように映し出される気がして、いつもわが身を振り返ってしまう。
自分は大人としてどうなの? と。
余談だが、冷淡な校長がどうしても、いつだったかの『3年B組金八先生』で
金八先生と対立していた千田校長に見えてしょうがなかった。
学校のイヤミキャラに国境はないってことでしょうか。