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ロンドンの出来事、ジャーナリズムの未来 [散読記]

大学で英文学を教えている知人が、ロンドン同時多発テロの直後に友人のイギリス人数人にメールで安否をたずねました。幸い家族・友人ともに無事だとすぐに返事がきたのですが、その内容というのが、ロンドン市民の冷静さと認識の深さがうかがえて興味深いものでした。

'Everyone is terribly shocked, but still very determined to get on with life as usual'
'The important thing is to keep going and not change your way of life'

みんなひどくショックを受けているけれど、それでもいままでの生活を変えてはいけない。動揺したり混乱したりせずにいつもどおりの生活を続けることこそが、いま一番大事なのだというわけです(ちょっと意訳)。テロリストの目的はまさに社会を混乱に陥れ、人々の不安を煽ることにあるのですから。

これに関連して、2冊の本を思い出しました。
武田徹『戦争報道』と、青山南『ネットと戦争』。

戦争報道

戦争報道

  • 作者: 武田 徹
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2003/02
  • メディア: 新書


ネットと戦争―9.11からのアメリカ文化

ネットと戦争―9.11からのアメリカ文化

  • 作者: 青山 南
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/10
  • メディア: 新書


どちらも9・11のあとに出版されたもので、現代の報道やジャーナリズムのあり方について考えさせられる刺激に富んだ本です。

『戦争報道』は第二次世界大戦やベトナム戦争、湾岸戦争などの報道をたどることで、戦争とジャーナリズムの密接な関係を描き、またジョージ・オーウェル、開高健、フランシス・コッポラといった作家やジャーナリストたちの数々の記述を通して、報道の主観性と客観性の意味を探っていきます。

一方、『ネットと戦争』は青山南氏が月刊誌『すばる』に連載している「ロスト・オン・ザ・ネット」の9・11以後の文章をまとめたもの。アメリカの作家や詩人、知識人たちはこの出来事をどう受けとめ、インターネットを通じて何を発信していたかを、ネット浮遊しながら丹念にすくい出しています。

9・11直後、アメリカのマイノリティたちがこぞって愛国心をアピールしていたこと。そこからイラク戦争に至る時期、アメリカのCNNニュースがゲームの始まりのように空爆開始までのカウントダウンをしていたのを思い出します。
報道は「事実」を伝えてはいても、どの場面を切り取るかによっていくらでも都合のいい物語を創りだすことができる。視聴者が受け入れやすい物語ほど危険です。そして知識人たちが「真実」のメッセージを発していたのは、センセーショナルに戦意高揚報道を繰り返すマスメディアとは全く別の場所だったわけです。
それに対し当時のイギリスのBBCニュースは、イラク戦争をきわめて客観的に、時には批判的に報道していたのが印象的でした。

どちらの本も、今後のジャーナリズムの可能性を個人のネットワークメディアに見出そうとしている点で共通しています。フィルターのかかった単一のマスメディアよりも、小さくて多様な「主観」に接することで見えてくる真実もある、ということでしょうか。


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降龍十八章

はじめまして。
テロ=悪という簡単な図式はよくないですよね。なら、明治維新もテロですから、その延長である今の日本も悪の枢軸です。(アメリカもテロで独立した)
テロ(相手からいえば抵抗運動)は弱者側の悲痛な叫びですから、単に『相手国に社会不安』を与えるためというよりは、相手の国民みんなに、あなた方の政府はこんなひどいことをしちるんですよと反省と注意をうながすためのものと考えるべきと思います。
by 降龍十八章 (2005-07-18 11:04) 

チヨロギ

降龍十八掌さん、はじめまして。
おっしゃるとおり、テロは見方を変えればレジスタンスでもあります。そういう多様な視点を持たなければ、文化の衝突は永遠になくならないですよね。
昨夜のNHKスペシャルでは、イギリスのテロ対策として貧しいイスラム教徒の若者たちに奨学金を支給したり、学生団体を通して政府との対話の場を設けたり、若者たちをテロに走らせる社会への不満をなくすためのさまざまな取り組みを紹介していました。そして公権力の強化によりテロを押さえつけようとするテロ対策法案に対し、人権侵害だとして議会が紛糾したということも。
多文化共存の時代、イギリス国民の見識とバランス感覚はぜひ見習いたいものだと思いました。
by チヨロギ (2005-07-18 11:53) 

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