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国枝史郎「神州纐纈城」 [散読記]

最近夏バテのせいか、胃がむかついて調子悪いです。
こうなると帰りの電車の中で本は読めません。
昔、貧血を起こして電車を停めてしまった前科があるからです。

その時読んでいた本が、この『神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう)』。

作者の国枝史郎は大正期に活躍した伝奇作家です。この作品をはじめとして、幻想と怪奇とロマンがドロドロと入り混じった独特の小説を数多く残しています。

時は戦国時代。武田信玄の寵臣の一人・土屋庄三郎は夜桜見物に来た神社の境内で、布売りの老人から半ば強引に深紅の布を売りつけられます。この布は「纐纈布」、すなわち人の血で染められた布。そこに浮かびあがる父の名を見た庄三郎は、富士の裾野にあるという「纐纈城」に父が捕われていると直感し、不思議な紅巾に誘われるように一人富士山麓に向かいます。
追手の少年武士・高坂甚太郎、殺人鬼の陶器(すえもの)師、面作師の月子など、登場人物の悪党ぶりも魅力的です。そして舞台は魑魅魍魎が棲む本栖湖の纐纈城と富士教団へ。
物語の背景には、庄三郎の幼き頃に行方知れずとなった両親と父の弟の三角関係、その愛憎が生み出した悲劇が見え隠れします。

妖しい造顔手術を施す月子、纐纈城の残忍な城主、奇病に斃れる人々。怖がりのわたしは本来この手のグロテスクな描写はからきし苦手なのに、うっかり読み出したらもう止まらない。魔界の沼にずぶずぶと引きずり込まれていくのです。そして読み終えた瞬間、全身の血の気が引いて――。
気がついたら電車の座席に寝かされておりました。

この小説、じつは未完です。しかし未完であるがゆえにラストシーンは鮮烈でした。
いま思い出しても貧血起こしそうです。


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