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南方熊楠と南セントレア [散読記]

南紀熊野が世界文化遺産に登録されたのは去年の7月のこと。
それからしばらくたって、朝日新聞に「熊楠特集」の小記事が載っていたのを
きっかけに、南紀を代表する博物学者・南方熊楠の本を少しずつ読んでいる。

まず入門編として、神坂次郎氏による熊楠伝『縛られた巨人』。いやー、
痛快な人物だ。博物館が服を着て歩いているような博覧強記ぶり、
欧米の学者と対等にわたりあい英語の論文を次々と発表する
天才でありながら、大酒飲みで喜怒哀楽の情が過剰に濃く、
時に常軌を逸した行動をとる「奇人」でもある。
膨大な書簡と論文を集めた『南方マンダラ』『南方民俗学』も、
さんざん脱線しつつスケールの大きな論考が語られていて、
私のごとき凡人にはすべては理解できないながらも文章にユーモアと
勢いがあって面白い。残りのシリーズ本が在庫切れで手に入らないのが
残念である。

その熊楠が一時期、学問の時間を犠牲にしてまで孤軍奮闘したのが
神社合祀反対運動だ。明治政府による神社合祀令とは、一町村一神社を
標準として残りの神社を統廃合するというもの。
廃社となった跡地は民間に払い下げできるし、神社の森の神木は切り放題で
大儲けできるというわけで、特に古い神社や祠の多かった三重県と
和歌山県では「悪徳官吏や神主たち」によって大半の神社が廃止され、
森は丸坊主にされてしまう。
これでは研究対象の植物も粘菌も、共同体の心の拠りどころさえも
消えてしまうと怒った熊楠は、地方官吏の悪行を皮肉たっぷりに暴露する
文章を新聞各紙に寄稿したり、議員を通じて国会でアピールしたり、
あらゆる手を尽くして合祀を食いとめようとした。自然保護運動の先駆けと
いわれるゆえんである。

先日の「南セントレア市」をめぐる騒動は、なんだかこの神社合祀を
連想させる。最近の市町村合併ブームのなか、私が生まれた市の名前は
消えてしまった。でも「南セントレア市」をはじめとして、合併を白紙撤回した
市町村も少なくない。反対する理由のひとつが「地名がなくなること」。
実際、私も新しい市名にはなんの愛着もわかないし、子ども時代を
消されたような気分だ。
ただ、世界遺産の紀州の山奥では、いくつかの村が過疎に悩みつつも
合併に加わらず、自立の道を選んだ。そこにはいまも熊楠のスピリットが
生きているような気がする。


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