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ギャグをまぶした放浪文学、吾妻ひでお「失踪日記」 [散読記]

吾妻ひでおというと「ななこSOS」ぐらいしか知らない(しかも内容は覚えていない)のだが、不条理とか美少女モノのジャンルではコアなファンの多い漫画家という。
この人が自らの極限状況をギャグ漫画にして描いたのが『失踪日記』である。前々から気になっていたのだが、運よく知人から借りてやっと読むことができた。(買わなくてすみません)

失踪日記

失踪日記

  • 作者: 吾妻 ひでお
  • 出版社/メーカー: イースト・プレス
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 単行本

作者は少年雑誌でデビュー以来、雑誌の売上げに貢献すべく不本意な作品を大量に書きつづけるうち、漫画への情熱を失うが、活躍の場をマイナー雑誌に移すことで自由な表現を手に入れる。
しかし、職業漫画家から一種のアーティストの領域に足を踏み入れたことの重圧からか、次第にうつ・不安・妄想にとらわれるようになり、山に入って自殺未遂。そのまま失踪して路上生活者になってしまう。
警察に保護されて一時仕事に復帰したものの、再び失踪。その後アルコール依存症になり、精神病院へ強制入院となる。

――といった作者のここ十数年の実体験が、内容の深刻さと裏腹に、じつに軽いタッチでつづられているのである。

真冬の寒さのなか、ゴミ漁りをしてリンゴを見つけると、
「腐って発酵したリンゴは凍った手を暖めてくれた」「微生物ってすごいなァ」

強烈な禁断症状と幻覚に襲われ、自販機の酒を飲んで一息つけば、
「こんな目には二度とあいたくない 今後は酒を切らさないようにしなくては(やめようとは思わないのか!)」

状況はじつに悲惨なのに、重苦しい雰囲気がない。むしろ痛快でさえある。どんなに絶望的な状況に置かれても、作者には芸術家としてのプライドがあり、それがポジティブな「生きる意志」として彼を支えているからだろうか。
それにしても人間って強い。とても弱くて強い生き物だと思う。


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コメント 4

うみのつばめ

チヨロギさん、こんばんわ。
吾妻ひでおさんというと、『プリンセス』で読んでいた憶えがあります。
それが『ななこSOS』だったのかなぁ?作品は憶えていないのよ。
絵柄はうっすら憶えているんだけどなぁ~ 
きっとそれが、不本意に書いていた物なのね。
プロの方の「気を入れて描いた物とアンケートの結果が一致しない。」という話をよく聞きますものね。
しかし、大変な苦労をなさっていたにも関わらず、軽いタッチで描くなんて、ものすごく大物の方なのかも・・・
by うみのつばめ (2005-06-21 19:12) 

チヨロギ

つばめさん、こんばんは。
作品はともかく、美少女の絵柄はきっと見覚えがあると思いますよ。なんでも「萌え」キャラの元祖だとか。当時はまだそういう言葉はなかったと思いますが。
過酷な体験って、誰かに話をしたり、文字や絵で描いたりすることで克服できることがあります。吾妻さんは漫画を書いて、自分を外から見つめることで乗り越えられたのかもしれませんね。
by チヨロギ (2005-06-21 22:33) 

そーすけ

あ、吾妻ひでおって言えば、自分が小学生の頃からよく読んでました。週間少年チャンピオンの「ふたりと5人」。知らないだろうなぁ・・・。もすこし後の「やけくそ天使」。
一般的に有名なのは、ななこSOSや、オリンポスのポロンがかわいくてアニメ化されていたりするんですよね。
でもこの人の場合、大いなるマイナーとでもいいましょうか、不条理でわけわかんないようなまんがが多いですよ。今はどんなの描いてるか知らないんですけど・・・。
で、この本、実は買うのを迷ってます。
by そーすけ (2005-06-22 01:32) 

チヨロギ

そうそう、その「ふたりと5人」が売れてしまったので、その系統の漫画の依頼ばかり来るようになって、やっつけ仕事をしていた・・・という裏話も出てきます。
この本はやはり漫画ですから、数時間で一気に読めてしまいます。それで買うのを迷って(ケチですねー!)、人から借りてしまったのですが。
ところで、そーすけさんのお話で思い出しました。ときどき兄から少年チャンピオンを借りて読んでいたことを。「らんぽう」が好きで、よく真似して描いてたなー。
by チヨロギ (2005-06-22 22:43) 

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