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アースダイバー式・街歩き [そぞろ歩き]

糸井重里さんのHP「ほぼ日刊イトイ新聞」で、「はじめての中沢新一。」が連載中だ。
糸井さんと中沢さんといえば、ずいぶん前に「カルチャーランチクラブ」という“井戸端会議的”トークイベントを、何回かシリーズ的に開催していたことがある。
まだ世の中がバブルになる前の、サブカルチャーがすごく元気だった時代。中沢さんは『チベットのモーツァルト』でニューアカデミズム(懐かしい!)の旗手として脚光を浴びてから、次々と刺激的な著作を発表していた。
(まだ若ゾウのわたしにはちとむずかしかったけど。)

当時30代後半の中沢さんは、時には軽口をたたいたりして学者然としたところがなく、かつミーハー的見地からみてもかっこよかった。糸井さんとの対話も、軽薄なようでいて深いやりとりがぽんぽん飛び交っていたように思う。
カルチャーランチクラブには2人のほか、『ビックリハウス』編集の榎本了壱さんが入っていたが、今回ほぼ日主催で10月24日(月)に開催されるトークイベント『はじめての中沢新一。』には、糸井さん・中沢さんの2人にタモリさんが加わるらしい。
知る人ぞ知る坂道研究家・タモリさんも絶賛する中沢さんの新刊『アースダイバー』が、このイベントの大きなきっかけになったからだ。


アースダイバー

アースダイバー

  • 作者: 中沢 新一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/06/01
  • メディア: 単行本

タイトルの「アースダイバー」というコンセプトは、アメリカ先住民による世界創造神話から着想を得ている。
世界がまだ一面の水で陸地がなかった頃、さまざまな動物たちが陸地をつくる材料を探して、代わる代わる水中に潜っては失敗した。最後に勇敢なカイツブリが深い水底から一握りの泥をつかんで浮上し、この泥を材料にして最初の陸地がつくられた――というものだ。

著者は人間の心=無意識をこの泥にたとえる。「ぐにゅぐにゅしていて、ちっとも形が定まらない」無意識が、東京という都市のそこかしこに散らばっているという。そしてこの「無意識」は、縄文の時代から現代に至るまで、都市の時間の流れ方に影響を及ぼしている。

彼がアースダイバーとなって東京を遊泳する時、欠かせないのが「アースダイバー用縄文地図」。縄文時代に陸地だったところ=洪積層と、海水が浸入していたところ=沖積層を色分けしたもので、ここに集落の跡、古くからの神社や古墳、寺院などの場所を書き込んでいく。すると多くの場合、こうした場所は縄文時代に半島の突端部や岬だったことがわかるのだ。
陸地と海のはざまにあたる岬のような地形に、縄文人は霊性を感じて「聖地」としていた。後世になって海岸や谷が埋め立てられても、聖地だった場所には決まって寺社や墓地などがつくられ、都市開発の波に飲み込まれない真空のスポットとして残っている。
著者は、このように縄文の感受性が現代の無意識に直接作用している場所をアースダイビングすることで、文明が抑圧してきた人間の心をもう一度、「泥からこね直」そうと試みている。


……といったテーマは横に置いて、興味のあるエリアの章を抜き出して読むだけでも、充分楽しめる本だ。各章の頭と巻末には親切にも、かつての海岸線と現代の主な建物を重ね合わせたマップがついている。
たとえば、谷底の湿地と乾いた高台のリズミカルな連続が、街の活力を生み出してきた新宿~四谷界隈。
岬の突端の聖域に立つ東京タワーや放送局(TBS、NHK)の電波塔。
まっさらな埋立地に移住してきた職人たちの街・銀座。
たしかに街の個性や魅力は、地霊をキャッチする「無意識」というアンテナの影響によって創りだされたものなのかもしれない。この本を手がかりに、土地の記憶をたどるように歩けば、見慣れた街が昨日とは違う顔を見せてくれそうだ。

そんなわけでこの前の休みの日、お墓参り&お墓掃除のついでに、アースダイバー気分で青山墓地を少しだけ歩いてみた。
地下鉄乃木坂駅の前の広い通りから急な坂を、青山斎場に沿ってぐるっと回るように上っていくと、いきなり六本木ヒルズが目に飛び込む。

 

南西の一角は墓地の中でも古いエリアで、古墳や遺跡が発見されているという。
木立ちの奥は急な崖になっていて、その下は道路。かつては眼下に海を望むことのできた台地の上は、さぞかし見晴らしのいい埋葬地だったに違いない。

 

墓地の真ん中からも六本木ヒルズが見える。



中沢さんも著書の中で危惧しているけれど、虎ノ門から六本木、霞町に至る広大な領域でここ数年、森ビルによる土地買収が着々と進んでいるそうだ。なかでも狙い撃ちされているのが、小さな家の密集する谷地である。
ここが均質な巨大ビルで埋めつくされた時、土地の豊かな記憶は果たして生き残っていられるのだろうか。東京という都市の泥=無意識は干上がってしまうのではないだろうか? 無機質なヒルズの森の増殖によって。


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コメント 2

そーすけ

すばらしい。
おもしろそうな本の紹介ありがとうございます。
また墓地の中からみえる六本木ヒルズは、何かSF的な、異様な感じがしました。新しいものが増えていくのは必然ですけど、新しいものが古いものを壊して増えていく一方では、これ本当に異様な街になりませんかね。魔界都市ならないことを願いますが。
土地の買収の話はこの間どこかのTV局でやってたような気がします。バブルのときのように、地上げがまた始まっているということを。

いつも記事をきれいに「結び」ますね。上手いなぁ。
by そーすけ (2005-09-25 00:20) 

チヨロギ

お褒めにあずかりまして、恐縮ですー。
あのヒルズの風景はどうも嫌な感じでした。美しくないのですよ。
都心ですから新しいビルはどんどん建って当たり前ですし、そこがまた江戸=東京の活力でもあったわけです。それでも、谷間を一色で塗りつぶすように一企業の開発が進む現状は、やはり不気味としか言いようがありません。
本の中にもMビル開発マップがちょこっと出ているんですが、「え、こんなにたくさんあるの?!」と驚いてしまいました。

この前話をした不動産屋さんも、ビルが増えすぎて大変だとぼやいていました。また土地バブルが始まっていて、そのうち絶対はじけますよって。
まったく、何回はじけたら気が済むんでしょうねぇ。
by チヨロギ (2005-09-25 01:49) 

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