SSブログ

タンゴ・冬の終わりに@シアターコクーン [theatre]

タンゴ・冬の終わりに」を観てきました。

 パンフレット表紙

[cast & staff]
作:清水邦夫
演出:蜷川幸雄
出演:堤真一、常盤貴子、秋山菜津子、段田安則、毬谷友子、高橋洋、ほか

[story]
物語の舞台は、日本海に面した街にある寂れた映画館、「北国シネマ」。
俳優・清村盛(堤真一)は3年前、舞台で突然引退を宣言して故郷に帰り、弟・重夫(高橋洋)が経営する北国シネマで、妻ぎん(秋山菜津子)とともに隠遁生活を送っている。
しかし、「二度と舞台には戻らない」という言葉と裏腹に、役者としての自我は次第に肥大し、盛の精神を確実に蝕んでいく。
そこへ、盛の手紙で呼び出されたかつての恋人・名和水尾(常盤貴子)が現われる。そして不安に駆られて後を追ってきた夫の連(段田安則)も。
なのに盛は、すでに水尾との恋愛の記憶を失くしていた。
幻想の中で過去と現在をさまよい、少年時代に盗んだ孔雀の剥製探しに熱中する盛。その孔雀の存在が、やがて大きな悲劇へとつながっていく――。

  パンフレットより

 


脚本・清水邦夫、演出・蜷川幸雄のコンビで20年ぶりに再演された「タンゴ・冬の終わりに」。
1984年の初演と86年の再演では、主人公の清村盛を平幹二朗が、元恋人・名和水尾を名取裕子が演じています(残念ながら観ていませんけど)。


突然の爆音とともに幕が開くと、舞台上には映画館の客席のセット。80人以上の観客が思い思いの格好で映画に熱中し、架空のスクリーンに向かって叫び、こぶしを突き上げています。(上映されている映画は、プログラムによると『イージー・ライダー』。)

観客の中にひとり、ヘルメットとマスクをした若者が紛れ込んでいることでもわかるように、時は1970年代の学生運動さかんなりし頃。社会を変革するんだと若者が理想に燃えた時代と、それに続く挫折というのが、この作品の重要なバックボーンになっているんですね。


個人的には全共闘世代の「挫折感」とか「無力感」とかにアレルギーを感じるんですけれども、まあそんな時代背景は抜きにしても、今回の舞台はほんとにすばらしかったです。休憩をはさんでの3時間があっという間でした。
ひとつには、理想と現実のふたつの自我に引き裂かれ、壊れていく一人の俳優のドラマとして。
もうひとつは、青春の夢と挫折の物語として、完成度の高い作品だと思います。

 

堤さんはさすがにうまいです。盛が諳んじるシェイクスピア劇の台詞なども堂に入っているし。
役者としての業の深さとか、鬼気迫る感じはおそらく、初演の平幹二朗さんには及ばないのではないかと想像しますけど、そのぶん少年のようなナイーブさ、純粋さは際立っていたんじゃないでしょうか。
一方、常盤さんは少し滑舌が・・・(苦笑)。ちょっぴり台詞をかんだ部分もありました。
でも、天性の輝きを持った女優、水尾の雰囲気はよく出ていたと思います。

弟役の高橋洋さんがとてもいいです。夢をあきらめて家業の映画館を継ぐしかなかった重夫の、それでも傷ついた兄を受け入れる温かさは、観ていてほろっとしてしまいます。
で、重夫が恋をしている相手というのが、映画館の従業員の冴えない女の子。これを毬谷友子さんが演じているのですが、じつは彼女だということに後半まで全く気がつかなかったんです。ものの見事に化けてました!
たしか、ずいぶん前にグローブ座でマクベス夫人を演じたのを観て以来です。なんとなく彼女にはエキセントリックなイメージを持っていたんですけど、こういう役も演じるんだなぁというのが新鮮な驚きでした。

それからもうひとつ。音楽がすごく印象的でした。
有名なパッヘルベルの「カノン」を中心に、それに歌をつけた戸川純の「蛹化(むし)の女」と、同じく遠藤ミチロウの「カノン」。
声といい歌い方といい、切なくて透明感があって、舞台の幻想的な雰囲気とじつによく合っているのです。


  月光の白き林で
  木の根掘れば蝉の蛹のいくつも出てきし
  ああ

  それはあなたを思い過ぎて変り果てた私の姿
  月光も凍てつく森で
  樹液すする私は虫の女 (「蛹化の女」 by 戸川純)


とくに最後の2行が、いまだに頭の中でぐるぐる回っております。油断すると、つい口に出して歌ってしまいます・・・。

++++

余談ですが、学生のころに何度か、戸川純に似ていると言われたことがあります。
あ、どーでもいい話でしたね。失礼しました。

 

「タンゴ・冬の終わりに」公演情報は、こちら。↓
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/06_tango/index.html


 

パッヘルベルのカノン/イ・ムジチ~バロック名曲集

パッヘルベルのカノン/イ・ムジチ~バロック名曲集

  • アーティスト: イ・ムジチ合奏団, アルビノーニ, パッヘルベル, ボッケリーニ, ハイドン, バッハ, ホリガー(ハインツ), A.マルチェルロ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルクラシック
  • 発売日: 2005/06/22
  • メディア: CD

 

玉姫様(紙ジャケット仕様)

玉姫様(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト: 戸川純
  • 出版社/メーカー: Sony Music Direct
  • 発売日: 2006/02/22
  • メディア: CD

 

ベトナム伝説

ベトナム伝説

  • アーティスト: 遠藤ミチロウ
  • 出版社/メーカー: インディペンデントレーベル
  • 発売日: 2002/06/17
  • メディア: CD


nice!(10)  コメント(28)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 10

コメント 28

kakora

あーとても気になる舞台ですね
しかも・・・音楽が戸川純に 遠藤ミチロウ (^^  聞こえてくるようです 
こうしたものも もう少ししたら娘と見られるかなぁ 
先日の本 届きました 本当はすぐ読みたい気分なんですけどね (^^;
by kakora (2006-11-22 11:19) 

shikayu

堤真一さん、好きな俳優さんなのですが
実際、かっこいいのですか?(笑)
・・・・すみません変な質問。。(笑)
常盤さんもともと滑らかなイメージないのですが(、そうでしたか;^_^Aアララ(笑)
え!!Σ( ̄□ ̄;)チヨロギさん、戸川純さんに?!
う~ん、てゆうか想像つきません・・・戸川さんもアートなお方だと思いますが
知的で品のある、戸川純?とか考えたら
ちょとぐちゃぐちゃに・・・(爆)
上の歌詞を口ずさむのは、私がスガシカオのドロドロ曲を口ずさむのと同じくらい、あたりに人影がないかどうか確認しなければいけないかもしれませんですね・・・(>з<)=зプププ

追伸:オケピ、やっと前半見ましたヽ(*^○^*)ノ布施さんのトコまだです。
    イモも無視して皿も洗わず観てしまいましたo(≧∇≦o)(o≧∇≦)o
    明日夜続きを見る予定です(〃∇〃)ゞ
by shikayu (2006-11-22 11:21) 

noric

舞台って一度行ってみたいものです。
by noric (2006-11-22 17:16) 

たかち

カノンはいい曲ですよね~♪
歌詞がつくとイメージが変わりそう!
by たかち (2006-11-22 20:39) 

Hiji-kata

ナイス・レビューでした。
見たくなりました。
ありがとう。
by Hiji-kata (2006-11-22 21:09) 

チヨロギ

◇kakoraさん◇
なかなかいい選曲でしょ?
時代設定は1970年前後なのに、80年代の音楽がしっくりきているんです。まあ、どちらも一風変わった曲ではありますが(笑)
北極号、さっそく購入されたんですね。気に入っていただけたらうれしいな~♪
クリスマスの夜、ぜひ娘さんと一緒に読んでみてくださいね(^.^)
by チヨロギ (2006-11-23 01:26) 

チヨロギ

◇shikayuさん◇
堤さんのファンでいらっしゃいましたか!
それでいてその質問って・・・(笑)
かっこいいです!(キッパリ)
声とスタイルがよく舞台栄えがするし、役柄的に母性本能をくすぐる雰囲気もあります。
あと常盤さんですが、20年前の名取裕子さんよりはずっとよかったと、両方観た人が言っていました^^;
戸川純さんについては、当時の猫背で暗い感じがおそらく共通点ではないかと・・・(笑)
えっ、スガシカオさんって、ドロドロの詞を書かれるんですか? 都会的な洗練されたイメージがあったのですが・・・聴いてみようかしら。今度、おすすめの1枚を教えてください♪
ところで、オケピの前半を楽しまれたようで、よかったです(^.^)
いよいよ後半は布施さん登場ですね。お楽しみに!
by チヨロギ (2006-11-23 01:28) 

チヨロギ

◇noricさん◇
ぜひご覧になってみてください!
一度行くと、はまっちゃうかもしれませんよ~♪
by チヨロギ (2006-11-23 01:29) 

チヨロギ

◇たかちさん◇
カノンはあまりにメジャーな曲ですけど、あらためて聴くととてもいい曲だなぁと思いました。
蛹化の女は独特の歌詞で、でも曲とは不思議とマッチしているんですよ(^^♪
by チヨロギ (2006-11-23 01:30) 

チヨロギ

◇土方歳三さん◇
はじめまして! コメントとnice!をありがとうございます。
おや、そのお名前は・・・?!
お褒めいただき、恐縮です^^;
by チヨロギ (2006-11-23 01:31) 

チヨロギ

◇うみのつばめさん、nice!をありがとうございます(^.^)
by チヨロギ (2006-11-23 01:33) 

柴犬陸

今週金曜日(24日)観劇予定です。
それで、大半スルーしております、すみません。
最後の2行、しっかり読みました。
戸川純さん似なんですか?チヨロギさん。
観劇後に、またコメントします。
by 柴犬陸 (2006-11-23 02:11) 

オープニングの迫力が伝わって来ました☆ しかも、イージーライダーですか♪ 映画「さらば青春の光」を思い出しました。(^-^)
しかも、ストーリーは舞台の為にあるような脚本で、面白そうですね!
いえ、演出:蜷川幸雄、主演:堤真一ですから、絶対に面白いです(笑)
チヨロギさんも、3時間たっぷりと堪能されたようで、良かったです☆
戸川純さん、懐かしいです。独特の雰囲気をお持ちで好きでした。
チヨロギさん、彼女に似てらっしゃるのですか? ふむふむ、メモメモ~。
by (2006-11-23 02:31) 

shikayu

↑土方歳三さま
そうなんですよね、チヨロギさんのレビュー見ると、知識も品格もない私でさえ
観たい!!観た過ぎる!!(そんな日本語なーしっ(笑))と思えて・・
罪作りなお方なんです(爆)困ってるんです(爆)(困ってはいませんが・・^^;)
で、スガなんですが・・・あるんですよ実は多数(>з<)=з
子供には解説できないものが・・・(;^_^A意味わからずうちの子はガンガン歌ってます、なにしろ私がずっと聴いておりますもので・・・
もしよかったら試しに(笑)1枚お作りしてCDお送りしますよぅ(笑)
by shikayu (2006-11-23 09:23) 

うみのつばめ

チヨロギさん、こんばんわ。
昨日は時間がなくてnice!だけだったけど、本当はコメントも書きたかったのよ~ん^^;
チヨロギさんの記事に観たい気持ちがそそられます。
うん、このメンバーだったら、この舞台観たいと思うわ。

実は堤さんを知ったのは、JACミュージカルのコマ公演という映像よりも舞台先行でしたから。
当時のジャパンアクションクラブは、『組!』では江戸見廻組の伊原剛さんたちの大柄でたくましいワイルド系の人たちと真田広之さんを筆頭とするかわいい男の子のアイドル系の人たちと二派に分かれていたように思います。
で、堤さんはアイドル組ね。『三銃士』に出てくるダルタニヤンみたいなイメージが頭の中に残っているから、また舞台を観たいと常々思っていました。
そんな彼も今ではいいおじさんだよね。

もう一人、とんちゃんのこと。あ、毬谷友子さんね。
彼女は、宝塚音楽学校の66期生で、私が良く知っている学年の子なの。
だから、このところ蜷川組の常連みたいな彼女の成長が観たくて気になっていたの。

それから、常盤貴子ちゃん。
確か、三谷さんの芸術座の後の新劇場の杮落とし公演で、ユースケの相手役に抜擢されていましたよねぇ。
違ったっけ?
ここで、蜷川さんにうんと鍛えてもらえるといいよね。
いい舞台を観せて貰える女優さんになってほしいし。

教育テレビあたりで舞台録画中継ないかしら?なんて思います。
by うみのつばめ (2006-11-23 18:30) 

チヨロギ

◇柴犬陸さん◇
観劇前なのに、お気を遣わせてしまってすみません。
もちろんスルーしちゃってください! そして、柴犬陸さんの感想をうかがうのを楽しみにしています。
戸川純さんの件ですが、初対面の人に突然言われたことが二、三度ありました。はるか昔、二十歳前後のことだったでしょうか。
そしていまは・・・見る影もありません^^;
by チヨロギ (2006-11-24 00:39) 

チヨロギ

◇saraさん◇
はい、saraさんが断言なさっているように、とてもおもしろかったです!(笑)
幻の観客のシーンは、大勢の役者さんがこっちを向いて叫んだり、旗を振っていたり。しかも一人ひとりが自己主張する演技をしているので、すごく迫力があるんですよ~。
ところで、戸川純さんに好印象をお持ちのようでよかったです。
とはいえ、現在の私に彼女の面影を探すのは、砂漠で落としたコンタクトレンズを探すよりもはるかに困難なことではないかと・・・^_^;
by チヨロギ (2006-11-24 00:42) 

チヨロギ

◇shikayuさん◇
観た過ぎてくださってありがとうございます(ありゃりゃ、日本語が^^;)
shikayuさんてば、いつもお上手なんですから~(笑)
そんなにおだてると木に登っちゃいますよ? そんで樹液すすっちゃいますよ?(爆)
スガさんは、絞りきれないほどたくさんありますか! そりゃファンですものね。
1枚を選べなんて、無理難題を申しましたm(__)m
うれしいお申し出をありがとうございます! 図々しいので、そういうお話にはすぐ乗ってしまうワタクシv(^.^)v
夜明けのランド前でお待ちすればよろしいでしょうか?(笑)
by チヨロギ (2006-11-24 00:50) 

チヨロギ

◇うみのつばめさん◇
ふたたびのご訪問、ありがとうございます~(^.^)
堤さんのJAC時代をご覧になっていたんですね!もしかして伊原さんも真田さんも? 超豪華~!!
でも堤さんがアイドル系とは意外でした(あ、失礼!)
だって、若い頃を全然知らないんですもの。観てみたかったなぁ、「かわいい男の子」だった堤さんを。
今回の舞台では『三丁目』の鈴木社長とはうって変わって、とても繊細なイメージでしたよ。

そうそう、つばめさんといえば宝塚! ちょうど毬谷さんの頃なんですね。「とんちゃん」っていうんですか? かわいい愛称ですね。
すごく成績の優秀な方だったと何かで読みました。当時の彼女はどんな雰囲気だったのでしょう? こちらも興味のあるところです。

常盤さんはとてもきれいな人でした。そうです、来年の三谷さんの舞台に出ます。舞台経験を積んで、さらにいい演技をぜひ観せてほしいですよね。
同じ舞台に、『組!』つながりでは戸田恵子、堺雅人、今井朋彦、阿南健治、小林隆、小原雅人(敬称略)と、懐かしい顔ぶれが。
こちらもテレビ放送があるといいですよね!
でもまだ1年も先の話なんですけど・・・^^;
by チヨロギ (2006-11-24 00:53) 

shikayu

乗ってくださる方には飛びつく私(爆)
それではブログクルーザーに業務連絡させて頂いてもよろしゅうございますか~~、よろしくお願い申し上げます!!o(≧∇≦o)(o≧∇≦)o(笑)
by shikayu (2006-11-24 09:09) 

チヨロギ

◇shikayuさん◇
乗りました!(笑)
こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします~(^o^)丿
by チヨロギ (2006-11-25 03:16) 

Hiji-kata

カチカチの返信、反省です。
まだまだ、江戸時代の癖が抜け切れていないようです。
書き直しておきましたので、お許しを。
by Hiji-kata (2006-11-26 17:49) 

チヨロギ

◇土方歳三さん◇
・・・とお呼びするのが、副長ファンとしましてはなんとも不思議な気持ちがいたします。なにしろ大河ドラマ『新選組!』の大ファンなものですから^_^;
わざわざ江戸時代からお越しいただきましてありがとうございます!(笑)
また遊びにうかがいますので、どうぞよしなに。
by チヨロギ (2006-11-26 21:43) 

柴犬陸

コメント遅れました。
「タンゴ」私には、魅力がありませんでした。
それで、劇評を書く気力が失せてしまって。。
ブログの更新も遅れています。
とても古めかしい印象がぬぐえませんでした。
私の時代に近いせいかもしれませんが。
by 柴犬陸 (2006-12-02 01:19) 

チヨロギ

◇柴犬陸さん◇
そうでしたか~。柴犬陸さんの劇評が読めないのはとっても残念ですが、しかたがありません(T_T)
20年前に平さんを想定して書かれた本ですから、時代はどうしても感じてしまいますね。しかも70年代の物語ですし。
私が記事中で「アレルギーを感じる」と書いたのは、その時代性の部分なんです。社会全体に挫折感と無力感を植えつけた当の世代が、いまごろになって若者に「熱狂」を求めたり、当時を懐かしんだりすることに強く反発する気持ちがありまして・・・。これにはいろいろと個人的な事情も関係しているのですが(笑)
いずれにせよ、コメントをありがとうございました。一日も早く、更新意欲を回復されますように!(^.^)
by チヨロギ (2006-12-02 04:09) 

チヨロギ

◇茅ヶ崎住人Rさん、nice!をありがとうございます。
by チヨロギ (2006-12-10 02:29) 

チヨロギ

◇yutakamiさん、nice!をありがとうございます。
by チヨロギ (2006-12-28 00:59) 

チヨロギ

◇ayaさん、nice!ありがとうございます。
by チヨロギ (2008-09-30 23:42) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。