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鈴木博之「東京の[地霊]」 [散読記]

去年、中沢新一氏の『アースダイバー』を夢中になって読んでいたときに、
「だったらこれもおもしろいよ」と人から勧められたのが、
鈴木博之氏の『東京の「地霊(ゲニウス・ロキ)」』。
単行本として出版されたのが1990年5月だから、もう15年以上前の本だ。
文庫版を貸してくれるというので待っていたら、半年経ってしまった。
こんなことなら自分で買うべきだったかも……。

東京の「地霊(ゲニウス・ロキ)」

東京の「地霊(ゲニウス・ロキ)」

  • 作者: 鈴木 博之
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1998/03
  • メディア: 文庫

 
『アースダイバー』は現代の東京に縄文時代の地図を重ね合わせ、
都市の成り立ちに人間の無意識を読みとろうとする刺激的な本だった。
鈴木氏の本は、中沢氏が書く文章のような華やかさはないものの、
やはり人の無意識に働きかける「地霊」という概念をとっかかりに、
東京という都市の歴史をていねいに読み解いていく。

書名にもなっている「ゲニウス・ロキ」とは、まえがきによると、

「ある土地から引き出される霊感とか、土地に結びついた連想性、あるいは土地がもつ可能性」

を意味するラテン語だそうだ。これの訳語が「地霊」である。

天海僧正が江戸城の鬼門に、「京都の写し絵」としてつくり上げた上野の森。
造園家・福羽逸人の壮大な夢の跡、新宿御苑。
都内最強の土地をめぐる三井財閥vs久能木商店の攻防の舞台となった日本橋室町。
ここに出てくる都内13か所の土地には、人びとの夢や野望、挫折の物語が刻まれている。

たとえば、六本木一丁目の国有地には江戸時代、南部藩の屋敷があった。
それが明治維新で主人を変え、宮家の邸地となる。
ここに移り住んだのが、皇女和宮。
政略結婚によって徳川家に降嫁し、幕末の動乱期に波瀾の人生を送った女性だ。
その後、邸地は東九邇宮家を経て、林野庁の所有地となるが、
日本の山林の衰退とともに、民活第1号として真っ先に森ビルに払い下げられてしまう。
そんな経緯を丹念にたどるなかで、著者はここを「薄幸」の土地と呼ぶ。


この本に興味を引かれるのには、ちょっとワケがある。
それは去年の夏、たまたま通りかかった小学校跡地で遺跡発掘現場を目にしたこと。
置いてあったパンフレットを読むと、そこにはかつて旗本屋敷があったらしく、
履き物や食器などの日用品、水道を引き込んだ跡も発見されているという。
大小さまざまな遺構の穴をフェンス越しに見ているうちに、そこに暮らした人びとの姿が
急に目の前に立ち現れたような、不思議な感覚にとらわれたのだった。

東京には、たぶんまだ江戸の地霊は生きている。
あとはそれを感じとり、生かし、受け継いでいく、こちら側の感受性の問題だ。

+++++

[関連記事]
・遺跡発掘現場の埋もれた谷 → http://blog.so-net.ne.jp/chiyorogi/2005-08-17
・アースダイバー式・街歩き → http://blog.so-net.ne.jp/chiyorogi/2005-09-24


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コメント 8

とっても面白い話題ですね☆ 東京には、土地にまつわる曰くが沢山あるから。
私も、こういう話は結構好きな方なので、思わず即座にナイス!押しました(笑
四谷という地名からは、即「四谷怪談」を連想しますし、文京区あたりを散策中
に、「八百屋お七」の○○いう看板を見つけますと、じっくり読んでしまいます。

先日、ラジオで元アリスの谷村新司さんが、日本の古い地名の由来について
熱く語られていましたが、京都の「都」としての作り方も参考になりますね~。
それに、例の「陰陽師」という方達!の存在も見逃せないものがあります(深い
地名の由来や、方角的なものって、迷信とかで片付けられないと思うんですね
by (2006-02-28 03:42) 

降龍十八章

だったらこれもおもしろい?ですよ。
『帝都物語』(荒俣宏)。もうお読みですか?いわゆる陰陽師ものですね。何冊かのシリーズだと思います。
深夜アニメでやっていた(最近はスカパーでやっている)『御伽草子』もおすすめです。最初は酒呑童子をやっつける話(勾玉を探す源頼光)なんですが、後半は現代の東京に舞台を移し、頼光主従が現代人に生まれ変わり、時の流れと戦うお話です。
by 降龍十八章 (2006-02-28 11:49) 

たかち

タイトルで「恐そう・・・」とか思いましたが、なんだか奥に深そうな本ですね!
by たかち (2006-02-28 19:57) 

チヨロギ

>saraさん、それが街歩きの楽しさですよね~。
たとえ昔の建物が残っていなくても、案内板とか石碑とかを読んだり、昔のままの坂道や路地を歩いたりすると、胸が騒ぐような気がします。

チンペイさんはそういう話もなさるんですか。聞いてみたい~。京都には地霊というより、怨霊がうようよしていそうですが(笑)
古来の地名というのは、その町のたくさんの情報が詰まった大切な財産だと思います。なのに、四谷近辺もみんなつまらない記号みたいな町名に変わってしまって。もったいない~!って感じです。
by チヨロギ (2006-03-01 01:00) 

チヨロギ

>降龍さん、ご推薦をありがとうございます。
『帝都物語』は映画化もされましたよね。どちらも見て(読んで)いないのですが、嶋田久作さんのCMは強烈でした。(saraさんはご覧になったでしょうか?)
スカパーの番組のほうも以前、降龍さんの記事で読ませていただきましたが、おもしろそうなお話ですね。うちの契約chで見られるかどうか、今度調べてみます。
by チヨロギ (2006-03-01 01:06) 

チヨロギ

>たかちさん、けっしてオカルトな本ではありません。だいじょうぶです(笑)
鈴木博之さんというのはもともとイギリス建築史が専門ですが、歴史的建造物の保存にも熱心に関わっている方なんですよ~。
(ただし、この本に建築のことはあまり出てきませんけど。)
by チヨロギ (2006-03-01 01:08) 

柴犬陸

『アースダイバー』は、ブックレビュー(NHK-BS)でも紹介されていましたが、『東京の「地霊」』は初見です。
>こちら側の感受性の問題だ。
そうですね。
霊は信じない方ですが、興味はあります。
by 柴犬陸 (2006-03-03 08:19) 

チヨロギ

柴犬陸さん、こちらにもコメントとnice!をありがとうございます。
東京の「地霊」は地味な本ではありますが、都市の歴史を教科書的に制度側から見るのではなく、そこに生きて暮らした人間の歴史として見る姿勢に共感しました。
主が変わって建物が建て替わっても、そういう土地の記憶が受けつがれてきたから東京はおもしろいんだという視点が、中沢さんと鈴木さんに共通していると(勝手に)思っているのですが。
by チヨロギ (2006-03-05 11:56) 

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