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東海道四谷怪談・南番@シアターコクーン(7/20追記) [theatre]

このところ、にわかに歌舞伎づいております(といっても2本だけですけど)。
渋谷・コクーン歌舞伎《東海道四谷怪談》南番を観てまいりました。

[東海道四谷怪談 南番]
作:四世鶴屋南北
演出・美術:串田和美

お岩・小仏小平・佐藤与茂七:中村勘三郎
民谷伊右衛門:中村橋之助
お梅:中村七之助
按摩宅悦:片岡亀蔵
四谷左門:中村源左衛門
伊藤喜兵衛・お熊・舞台番:笹野高史
直助権兵衛:坂東弥十郎
お袖:中村扇雀

↑パンフレットの表紙は宇野亜喜良さんの絵。さすが、美しいです。

 


7回目を迎えるというコクーン歌舞伎の、第1回で上演されたのがこの「東海道四谷怪談」。
今回は、12年前の初演をベースにしたオーソドックスな「南番」と、配役と場を変えて新たな演出を施した「北番」が並行上演されています。
わたしはコクーン歌舞伎どころか、歌舞伎そのものの観劇体験がほとんどないので、まずは基本から! ということで南番を選びました。

お話はあまりに有名なので、主な登場人物の関係だけを簡単に。
四谷左門は塩冶判官(浅野内匠頭がモデル)の家臣で、いまは浪人の身。その2人の娘のうち姉のお岩民谷伊右衛門に、妹のお袖佐藤与茂七に嫁いでいます。
ところが、高師直(吉良上野介がモデル)家側の用人・伊藤喜兵衛の孫娘であるお梅が、伊右衛門に横恋慕。夫婦をなんとか離縁させようと、伊藤家の使いの者が妙薬と称してお岩に毒を贈り――。
あとはご存知の怨念絵巻が展開していきます。

 勘三郎さんのお岩は、じめじめドロドロした恨みというよりは、信じる人に裏切られた哀しさと口惜しさが強調されていて、背筋も凍る昔の怪談映画とはずいぶん趣が違う気がしました。オーソドックスな歌舞伎を下敷きにしているとはいえ、こういうところには演出家の個性・感性が生きているのかも。
意外とよかった(失礼!)のが橋之助さんの悪党ぶり。残忍で不忠者でサイテーなやつなのに、どこか色気があって魅力的な「ワル」を好演していました。

わたしの座席は椅子席の左端、前から3列目です。劇場は違いますが、《『決闘!高田馬場』の時》と偶然同じような位置から、花道を行き来する役者さんたちの姿を間近で観ることに。これまた有難き幸せにござります~。

しかしこのお芝居、なんといっても前方の平場席(椅子のない席)で観るのが正解でしょう。
正座も横座りも超苦手ゆえ、椅子席から指をくわえて見ているしかなかったのですが、平場席、おもしろすぎます!
通路でもないのに勘三郎さんたちがずかずか割り込んで通っていくし、前列はウォータースライダー状態で水かぶってるし、予想もしないところからお岩さんがグワッと出てくるし。
この時はホール中お化け屋敷状態で、女性の悲鳴がすごかった。失神しそうな勢いで叫んでいる人もいて、たいへんな盛り上がりでした。

そして圧巻は、クライマックスの大立ち回り。
橋之助さんと殺陣のみなさんのスピーディな剣さばきに目を奪われていると、順々にくるっとトンボを切って、舞台前方の堀に飛び込むんですね。客席には当然、大きな水しぶきが!
ここで役に立つのが、あらかじめ配られていた雨合羽と防水シートです。
水かぶり席(?)のお客さんは立ち回り直前、笹野さん・七之助さんによる水鉄砲を使っての楽しいご指導のもと、予行練習があったのです。練習の甲斐あって、みなさんパッとタイミングよくシートを持ち上げていましたよ~。お見事!

上演時間は休憩15分を含めて3時間強におよびましたが、その長さはまったく苦になりません。
終演後はやんややんやの大喝采。歌舞伎ってエンタテインメントなんだなあ、とあらためて実感しました。
怖い場面もあったけど、ほんとうに楽しかった。PARCO歌舞伎では聞けなかった、「中村屋!」「成駒屋!」なんて掛け声も堪能できたし。
もし再々演があったら、また絶対観に来たいです。


ところで、金井大道具という舞台美術製作会社の営業・阿部さんのブログ、《大道具さーん ちょっとー!》によると、この前日の北番の上演中、文化村全体が突然停電になったらしい(原因は不明)。
阿部さんが休憩中に楽屋へ行くと、

「お岩さんをつれて来ないでください」

とダメだしされたそうです。

えー! そうなの?!


==追記==

2006コクーン歌舞伎『東海道四谷怪談』は、以下のチャンネルでテレビ放送されます。

・南番:《歌舞伎チャンネル》 放送日:8月1・5・8・10・15・19・24・31日
 番組内容: http://www.dentoubunka.co.jp/db/0608_01.html

・北番:《WOWOW》 放送日:8月4日
 番組内容:http://www.wowow.co.jp/stage/cocoon/


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コメント 12

柴犬陸

うわぁ~、面白い。
観に行けば良かった。。後悔しきりです。
私、コクーン会員なので、パルコよりは絶対的にチケット取りやすいんですもの。
案内が来てたのに、題名を見て、スルーしてしまいました。
残念!
レポート楽しませていただきました。
by 柴犬陸 (2006-04-21 13:31) 

うみのつばめ

コクーン歌舞伎にも観に行ったんですね。
現代劇ファンの多かった三谷さんのパルコ歌舞伎に比べ、コクーン歌舞伎は、勘三郎さんの元々の歌舞伎ファンが多いから、『中村屋!』『成駒屋!』などの掛け声をかけるタイミングがちゃんとわかっているんでしょうね。
観客と演者との対話があって、舞台ならではですよね。
串田和美さんって、こんな面白い演出をなさるんですか。お堅い新劇的な物ばかりを想像していました。 
今度は、『大人計画』のクドカンさんがホンを書くらしいから、それも楽しみだわ。
by うみのつばめ (2006-04-21 21:01) 

あれは、私が高校二年生だった夏の出来事でした。(遠い目。。
私は放送部に所属し、文化祭でのレコード・コンサートに向けて、毎日遅くまでリハーサルの毎日でした。
私達二年生は、男子2名でしたが女子は12名も居まして賑やかでした。それに比べ一年生は男子3名に女子3名と、バランスが取れていました(それはどうでも良いのですが(笑)。
コンサート担当が部員の半分として、残りの半分ですから、約10名程が「放送劇」の担当だった訳です。
前置きが長くなりましたが、その夏に制作していた放送劇が、『播州皿屋敷』だったのです。
文化祭まで後2週間という頃だったでしょうか? 事件は、次々に起きました。怖いくらいに。
一人は自転車に乗っていて転び怪我をし、一人は風邪をこじらせ・・・。3人・4人と、不幸な出来事が起きました。
流石に怖くなり、コンサート担当者にも相談が持ちかけられました。
結局、中止するのは良くないからと、本を持参してか、とにかくお払いをしてもらって来たのだそうです。その後は、何も起こらず、無事に完成出来たのですが、やはり不幸な物語を扱う場合には、配慮が必要なのだと知らされた事件でした。
「停電」ですか? 起こっても不思議では無いですね。くわばら、くわばら。
by (2006-04-21 23:57) 

チヨロギ

>柴犬陸さん 
スルーしちゃったんですかー、もったいない!
私は会員ではないのでチャンスが少なく、一般販売でかなり気合入れて入手しました。
題名を見て私は逆に、筋を知っている四谷怪談ならとっつきやすいかなー、と思ったんです。なんたって初心者ですから。
楽しく読んでいただけて何よりです(^.^)
by チヨロギ (2006-04-22 18:28) 

チヨロギ

>つばめさん 
そうなんです、パルコとくらべて歌舞伎通の方が多いんですね。あの掛け声の独特のイントネーションと絶妙の間合い。カッコいい~! と思いました。
同じ串田さんの演出でも、北番のほうはぐっと新劇っぽいらしいです。群像劇として人物描写に比重を置き、音楽も装置もいたってシンプルだとか。南番はストーリーとしての余韻はあまりないので、北番の描き方も非常に興味のあるところです。
勘三郎さんはパンフレットのインタビューでパルコ歌舞伎にもふれて、自分はまだまだ「守り」じゃないぞ! と息巻いているご様子でした。新しいことに貪欲な方ですよね。
クドカン版も、おもしろそう!
by チヨロギ (2006-04-22 18:38) 

チヨロギ

>saraさん 
うわー、脅かさないでくださいよ~!!
saraさんはコンサート担当のほうですよね? 何事もなく、ほんとによかったですね。
高校の文化祭といえば、私は3年間お化け屋敷担当でした。教室の隅にお墓のオブジェつくったりして、いま思えばなんて不謹慎な(笑)。ちなみに女子高です。
会場の準備をしているうちに日が暮れて教室が暗くなってくると、さすがに居心地のいいものではありませんでしたね。
それと、当時はなぜか放課後に怪談話をするのが流行りました。桜金造さん並みに話のうまい子がいて、あれは怖かったな~~。
文化村にはお岩さんも観にきていらっしゃるのでしょうか? ・・・いやはや、無事に千秋楽を迎えてほしいものです。
by チヨロギ (2006-04-22 18:39) 

たかち

観てみたかった~~!
でも、怪談はちょっとどころか、かなり苦手で・・・
wowowで録画した「決闘!高田馬場」を、やとこさ観ました!!
コレが初歌舞伎です!
安い席でイイから、歌舞伎座とか行ってみようかな~♪
by たかち (2006-04-23 17:45) 

チヨロギ

たかちさん 
怖いけど楽しいですよ~。これぞ大衆娯楽!って感じですから。
高田馬場、あの走りっぷりを楽しんでいただけましたか?
四谷怪談も「北番」のほうをwowowで放送するらしいですね。
また録画頼まなきゃ~。
by チヨロギ (2006-04-24 02:01) 

降龍十八章

なんで東海道がつくのでしょうか?
いわれかなにかはパンフレットで説明されていますか?あったら教えてくださ~い。
何でも東海道五十三次は江戸(穢土)から京都(浄土)へ53日?の行程を経て成仏するという仏教のお話からきているそうです。
因みにこれも歌舞伎で有名な忠臣蔵は、いろは四十七文字と四十七士にかけて仮名手本忠臣蔵とかいいますね。
by 降龍十八章 (2006-04-24 10:28) 

チヨロギ

降龍さん 
『東海道四谷怪談』はそもそも忠臣蔵世界を裏返しにした「不義士」の物語です。
当時は武家の事件を実名で劇化するのが禁じられていたため、赤穂浪士の仇討を室町時代の話に書き換えたのが『仮名手本忠臣蔵』ですが、『四谷怪談』は文政8年の初演の時、この『忠臣蔵』と組み合わせて二日がかりで上演されました。2つのドラマが交互に展開され、最後は「討入り」で終わるという形式です。
伊右衛門は塩冶浪人(=赤穂浪人)でありながら仇敵の高家(=吉良家)への仕官を望み、お岩を悶死させ、最後には破滅する不義士として描かれます。彼が赤穂から東海道を江戸・四谷へ東上してきたという設定なので、『東海道四谷怪談』なのです。
by チヨロギ (2006-04-25 00:55) 

降龍十八章

へぇ~×100です。
お岩さんののろいとか、よく聞きますが、実際は話題づくりのためかも・・・と最近は思います。昔は怪談ミステリーを読んで寝られなくなったのですが・・・
もっとも、ポルターガイストでは主演の女の子が本当に死んでしまいましたが・・・
by 降龍十八章 (2006-04-25 07:21) 

チヨロギ

降龍さん 
中沢新一さんの『アースダイバー』によると、実在のお岩さんは婿養子の伊右衛門と仲のよい幸せな夫婦だったそうで、その幸福にあやかりたいということで人気を集めたのが、四谷三丁目にある於岩稲荷なんだそうです。
ここを題材に、当時あった伝説や小説、実際の事件を絡ませて暗黒劇に仕立てたのが鶴屋南北なんですね。
祟りが現実にあるのかどうかはわかりませんけど、人の恨みや哀しみへの感受性や想像力を持っていることは、悪いことじゃないと思いますよ~。
by チヨロギ (2006-04-26 02:11) 

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