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柳家さん生「笑の大学」@三百人劇場 [theatre]

10月30日のことですが、人生初!の落語を聴きに、三百人劇場へ。
といってもこの日の出し物は、三谷幸喜原作『笑の大学』です。
1994年にラジオドラマ、96年98年に舞台、2004年に映画と、さまざまなバージョンで演じられてきた人気作品なので、ご存じの方も多いと思いますが、今回は落語版。三谷幸喜さんの日芸(日本大学芸術学部)時代の先輩にあたる柳家さん生さんが、1999年に初めて独演会の演目として落語に仕立てなおしたものです。
その作品が今年の夏、《大銀座落語祭》で7年ぶりに復活。さらに三百人劇場の「さよなら口演」として、一夜かぎりの再演が実現しました。

1940年 秋
今しも日本は第二次世界大戦へと/かけだして行く。
芝居や落語が、笑いがあるというだけで、/國から目をつけられる事となる。
徴兵という制度の中、多くの演劇人、演芸人、/文人、運動選手らが戦争にかり出され、
多くの人が死に、落語家は一人として死なず、/中には太って帰ってきたという……
そんな時代のお噺で――(『笑之新聞』より)

劇場に入るとすぐ、着物の裾を端折った瓦版売が「号外、号外だよ~!」。
手渡されたのが、この『笑之新聞 号外』でございます。

 

昭和16年(1941年)に発せられた「宣戦の大詔」全文がでかでかと掲載されているんですが、その横にあるのは、
上演中の携帯電話の使用を全面禁止
の記事。
三百人劇場には官憲が配置され、「甚だしい違反者は、その場で銃殺される恐れもあるので要注意」だとか。もちろん、速攻で電源切りましたけどね(笑)

====

物語の舞台は1940年の日本。
新作台本の上演許可を得ようとする劇団「笑の大学」の座付作家と、台本にあらゆる難癖をつけ、なんとか上演を阻止しようとする検閲官との二人のやりとりで話が進んでいきます。
ところが、検閲官が「笑い」の要素をなくすよう書き直しを命じるたびに、台本がどんどんおもしろくなっていくという奇妙な事態に。
この作品の下敷きとなった舞台版では、検閲官を西村雅彦さん、座付作家を近藤芳正さんが演じていました(わたしはDVDでしか観たことがないんですが、すごくおもしろかった!)。
ところが柳家さん生さんは、舞台版にはない検閲官の妻と、劇団の大道具さんを含めて、4人の登場人物をたった一人で演じてしまうんです。

落語になじみがないので、じつは「途中で眠くなったら困るなぁ」なんて密かに思っていたんだけれど、そんな心配は無用でした。
視線の向きひとつ、わずかな発声の違いで二役を演じ分ける技と、2時間を退屈させずにクライマックスまで持っていく、気迫あふれる語り口。あぁ、自由席で最前列を陣取った甲斐があったというものです。

何しろ落語ですから、舞台セットもないし、衣装も一着のみ。座付作家が持参する手土産も、おでこに貼ってくる大きな絆創膏も、身ぶり手ぶりでそれと示すだけです。
なのに、さん生さんの顔をじーっと見て聴いているうちに、ないものが見えてきて、別の人格がそこに現われた気がするんです。
落語って、すごいですねー。というより、さん生さんの技量に圧倒されてしまいました。

今回の出し物を観ていて思い出したのが、先日すったもんだの末(記事はこちら)に入手した《憲法九条を世界遺産に》に出てくる爆笑問題・太田光氏の言葉。

古典落語を聞いていると、武士というのは、たいがい偉そうにしているバカなやつというギャグの対象として出てくる。江戸時代の民衆はそんな落語ネタでストレス解消をしてたんだろうけど、じつは、武士道もいいけど、行き過ぎると危ねえぞという感覚を持った人たちがいっぱいいたんじゃないかと思います。その感覚をうまく落語が表現していた。(104ページ)

「笑い」を徹底的に排除しようとする検閲官と喜劇作家との闘いは、むしろ落語にこそふさわしいテーマなのかもしれません。とくに、笑いが権威を無化する力を失ったいまの時代には。

====

舞台がはねて劇場の外に出てくると、なんと柳家さん生さん本人がニコニコと観客をお出迎え。
2時間の熱演での疲れも見せず、ほんとうに温かい笑顔が印象的でした。

 

柳家さん生さんの公式サイトは、こちら。 → http://www.3lives.net/

舞台版『笑の大学』(1998)、映画版『笑の大学』(2004)のDVDは、パルコのオンラインショップに。
 → http://www.parco-mitanikoki.com/

映画版はAmazonでも。

笑の大学 スタンダード・エディション

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  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2005/05/27
  • メディア: DVD

 

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コメント 20

柴犬陸

「笑の大学」は、映画版をDVDで観ました。
正直、これまで持っていた三谷氏のイメージが変りました。(良い意味で)
落語とは、面白い発想です。

>笑いが権威を無化する力を失ったいまの時代
三百人劇場のフィナーレにある意味ふさわしい演目でしたね。

ところで、太田光氏はしっかりした自分の意見を持っていて、はっとさせられることがよくあります。
by 柴犬陸 (2006-11-05 15:05) 

noric

笑いの大学は劇場で観ても面白いだろうな。
by noric (2006-11-05 16:13) 

たかち

「その場で銃殺される恐れもあるので要注意」すごい!
ルール違反とはいえ、電源を切らないでどうなるのか試してみたい・・・
落語家さんってすごいですよね~!座ったままで身振り手振りだけで全てを表現するんですからね!
by たかち (2006-11-05 19:26) 

shikayu

うわまた観たいものが・・・あちゃーΣ( ̄□ ̄|||(笑)
これは映画版ならレンタルありますかねぇ??
オケピ!もね、パパが休みなくてまだ観れてないんですよ・・・
だって泣いてるとこ見たいし(爆)一緒に見ないと・・・(笑)
んーチヨロギさん、興味津々にさせる素晴らしい解説、
ちょっと止めておいてくださいませんか・・・
ウズウズパニックになりそう~~!!なんて・・・本当です(爆)
by shikayu (2006-11-05 22:05) 

チヨロギ

◇柴犬陸さん◇
映画版は観ていないんですよ~。「良い意味で」ということは、おもしろかったんですよね? ぜひ観てみたいです。
落語版のほうは、まず演劇を落語にするという企画力、そして2時間ダレない構成力も見事でした。三百人劇場も、なかなか粋なことをしてくれます。

爆笑・太田氏の論は、過激なようでいて非常に真っ当なことを言っていることが多いですよね。
「憲法九条」の本の中でも、権力を茶化してその危険性を薄めることが落語(笑い)の効用だという話に、すごく共感してしまいました。
by チヨロギ (2006-11-06 00:21) 

チヨロギ

◇noricさん◇
おもしろいと思います!
・・・と、舞台版はDVDで見ただけの私が言うのも、説得力ないですけど^^;
by チヨロギ (2006-11-06 00:28) 

チヨロギ

◇たかちさん◇
さすが命知らずなたかちさん! 私は小心者だからムリ、ムリ~(笑)
落語って初めて観たんですが、こんな豊かに表現できるものだとは思いませんでした。これはもう、究極の一人芝居かもしれませんね。
by チヨロギ (2006-11-06 00:30) 

チヨロギ

◇shikayuさん◇
映画版ならレンタルしているのでは? という私も、まだ映画は観ていなかったりするわけで(苦笑)
「オケピ!」はパパさま待ちですか? 休日返上とは、お疲れさまです。
そんなパパさまの疲れを癒すのにも、三谷さんのコメディはぴったり♪
そうそう、「笑の大学」もラストは泣けてしまうんですよ。というのも・・・おっと、それは観てのお楽しみということで!(笑)
by チヨロギ (2006-11-06 00:45) 

柴壱

二人芝居を落語にアレンジ…いいですねぇ。なんか、すごくピッタリな感じ。
見て(聞いて)みたかったですわぁ。
私は吾郎ちゃんの映画版しか見てないですけど、舞台には舞台の、落語には落語の
良さがそれぞれにありそうですものね。比べてみるのも、また楽しそう。

ところで、チヨロギさん、佐々木蔵之介さんはお好きでしたっけ?
蔵之介さんは「新撰組」…ではなかったでしたっけね…サルマタ失敬!!
by 柴壱 (2006-11-07 01:24) 

kakora

落語にアレンジされたのが 三百人劇場のフィナーレだったんですね
あーこれは見たかったなぁ
私も 落語は学生の時に友人たちがしているのをみた程度で
ちゃんと見たことはないのです。。。 見てみたいなぁ
そして 太田光氏の言葉は どきどきどっきりします (^^)
by kakora (2006-11-07 16:36) 

チヨロギ

◇柴壱さん◇
そうなんです、やってみたら落語にぴったり!
でもこれ、落語家さんなら誰でもできるというものではなさそうです。素人目にも、さん生さんはすごく上手い方だと思いました。
映画版もぜひ見比べてみたいです。

えっ、佐々木蔵之介さん? どちらかと言えば好きなほうですけど、何か??
「新選組!」には残念ながら出演されていませんでした。史実では同名の新選組隊士がいたようですが。
で、柴壱さんは青空貫太(アオカン)のファンなんですね^_^;
by チヨロギ (2006-11-08 02:46) 

チヨロギ

◇kakoraさん◇
あっ、これは落語の「口演」としての最後ということで、まだ昴のお芝居のほうは残っているんですよ~。説明が足りなくてすみません。
私も落語は見たことがなかったんです。最近は落語ブームらしいですし、一度寄席にも行ってみたくなりました。
太田氏の発言はなかなか鋭いですよね。ものすごく勉強家・読書家なところも感心してしまいます。
by チヨロギ (2006-11-08 02:54) 

kakora

チヨロギさん あは(^^;
佐々木蔵之介さん 私もどちらかと言えば好きなほうです
ミッチーといい 佐々木さんといい・・・(^^)ゞ
by kakora (2006-11-10 01:06) 

チヨロギ

◇kakoraさん◇
あれ~、またまた好みが近いですねぇ^^;
ちょっとクセのある人がタイプ?(笑)
by チヨロギ (2006-11-10 02:08) 

三百人劇場も、ラストを前に粋な出しものをみせてくれたようですね☆
落語は、友達の影響で、上野の鈴本演芸場等に行った事があります。
その時に、落語家さんって、お客さんを惹きつける魔力と集中力を持たれているなぁ、と思いました。何だか、お客であるこちらの方がジーッと見られているような・・・(笑)。
柳家さん生さんの舞台は見たことが無いので、今後はチェックです!
それと、「笑の大学」の映画もまだなので、DVD借りて来て観ま~す♪
by (2006-11-15 00:09) 

チヨロギ

◇saraさん◇
レスが遅くなってごめんなさーい!!
ここ数日深夜帰宅のため、PC開く前に撃沈してしまいました・・・(>_<)
saraさんは寄席に行ったことがあるんですね。私は一度もないんですよー。
 >お客であるこちらの方がジーッと見られているような
わかります! まさにそういう感じでした。だからこちらも、さん生さんの表情から目をそらすことができないんですよね。
落語版「笑の大学」もDVD化されるといいのになぁ、と思います。
あ、その前に映画版を観なくては!(笑)
by チヨロギ (2006-11-16 09:42) 

茅ヶ崎住人R

私は落語が大好きです。
「笑の大学」も
舞台はテレビで観ましたが
落語版もぜひ聴きたいです。
by 茅ヶ崎住人R (2006-11-18 14:37) 

チヨロギ

◇茅ヶ崎住人Rさん◇
Rさんは落語にお詳しいのでしたよね。
私は初めてだったのですが、
なかなか感動的な体験でした。
落語版「笑の大学」をぜひ観ていただいて、
Rさんの感想をお聞きしたいです。
by チヨロギ (2006-11-19 00:55) 

流星☆彡

神出鬼没の流星☆彡です!(゜_゜>)
『笑の大学』が落語で!これは 興味津々リンリンランランですぞ~♪
また やらないかな~!ぜひ 寄席=生の落語を 体験してみたいんです!
それでは…サルマタ失敬!!
きっかけが なくても、↑絶対 言いたかったの~!(~_~;A)
意味無く すんまそん。m(__)m
by 流星☆彡 (2007-03-27 21:14) 

チヨロギ

◇流星☆彡さん◇
いらっしゃいませ! ありがとうございます(^^♪
落語、おもしろいですよ~。私も一度しか経験ないんですが(笑)
サルマタ失敬、私も一度使ってみたいのに、
全然言うチャンスがありませーん(>.<)
ところでリンリン・ランラン(笑)・・・いまいずこ?
by チヨロギ (2007-03-28 02:12) 

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