SSブログ

私はだれでしょう@紀伊國屋サザンシアター [theatre]

先週のことですが、こまつ座第81回公演「私はだれでしょう」を観てきました。

 ←パンフレット(季刊『the座』第60号)表紙

[私はだれでしょう]
  2007年1月22日(月)~2月25日(日) 新宿南口・紀伊國屋サザンシアター
作:井上ひさし
演出:栗山民也
音楽:宇野誠一郎
出演:浅野ゆう子、梅沢昌代、前田亜季、大鷹明良、北村有起哉、川平慈英、佐々木蔵之介
ピアノ奏者:朴勝哲

====

初めての「こまつ座」観劇。しかもいきなりの「初日延期」であります。
ニュースでご存じの方も多いかと思いますが、当初の予定では初日が1月14日(日)。
幸い、こまつ座通の方から「1月23日くらいまでは危険」とのアドバイスを受けていたため、仕事のスケジュールとの兼ね合いで、ぎりぎり23日夜のチケットをとることにしました。
で、大方の予想どおり(?!)、井上先生の台本執筆の遅れで初日が20日に延期。
さらにその後、22日に再延期され・・・つまり、観劇日の前日にようやく幕が開いたわけです。
あー、助かった。

 

さて、お芝居の話です。
時は戦後まもない昭和21年から22年にかけて。
内幸町にある日本放送協会(NHK)・東京放送会館は、GHQに接収され、建物の上半分を連合国軍の事務所として使われていました。
この会館の2階、ベニヤ板で囲われた小さなスペース=脚本班分室が、今回の舞台。当時聴取率90%といわれたラジオ番組『尋ね人』のスタッフルームです。
『尋ね人』というのは、聴取者の投書をもとに、戦後の混乱で離れ離れになった家族を捜し出すための番組でした。
この番組を企画したのは、元アナウンサーの川北京子(浅野ゆう子)。同僚の山本三枝子(梅沢昌代)や脇村圭子(前田亜季)とともに、読むべき投書を選び、原稿をつくり、番組を放送しています。そのアナウンス原稿がGHQに目をつけられて放送禁止の憂き目に遭わないように、念入りに校閲するのが放送用語調査室主任・佐久間岩雄(大鷹明良)の仕事です。
そんなある日、スタッフルームに駆け込んできたのが、自称・山田太郎(川平慈英)という青年。彼はサイパンから奇跡的に生還したものの、記憶のほとんどをなくしていました。
山田太郎の失われた家族捜し、自分探しの物語を軸にしながら、占領下の日本で放送局が置かれていた状況が、少しずつ浮き彫りにされていきます。

 

ピアノ伴奏に乗せて、出演者全員が歌う「耳」(←曲名です)で始まるこの舞台。ほのぼのと懐かしい曲調で、昔のNHKのホームドラマを見ているような感覚をおぼえました(と言っても、あまり見たことはないんですけど)。
全体にとても台詞が多いなあという印象で、その台詞がぽんぽんぽんぽんリズミカルに舞台上を飛び交っている感じ。なるほど、これがこまつ座/井上ひさしさんの持ち味なんだろうなと思いました。

浅野ゆう子さんが少し硬いかなという印象でしたが、これは稽古期間の短さとプレッシャーのせいかもしれません。
楽しみだった佐々木蔵之介さんは、日本とアメリカの国籍を持つGHQのラジオ班主任・フランク馬場の役。意外と背が高くて、ちょっとびっくりしました。理想主義者で正義感のある日系アメリカ人の雰囲気が、よく出ていたと思います。

でもなんと言ってもよかったのは、「私はだれでしょう」の張本人、川平慈英さん。
山田太郎が次々と新たな芸・・・ではなく特技を思い出していく場面では、芸達者ぶりを発揮して大笑いさせてくれるんですが、太郎の自分探しの旅には当時の日本の世相や戦争の悲惨さがにじみ出ていて、胸がしめつけられます。

====

この「尋ね人」という番組に、うちの母も何度か投書をしたことがあるそうです。
沖縄に出征したまま帰らない従兄の消息を知るために。
結局、現地の新聞社を通じて玉砕の詳細を知ったのは、沖縄が本土復帰をした70年代になってからのことでした。

おりしも昨日(29日)、政治家が介入したとされる番組改変問題で、《NHKに賠償を命ずる判決》が。

「わたしたちには、まだ伝えなければならないことがある」
とは、ヒロイン・川北京子の台詞。
この舞台でGHQの圧力に屈しない人びとを描いた井上ひさしさんは、昨日の判決をどんな想いで聞いているでしょうか。

 


「私はだれでしょう」公演詳細 http://www.komatsuza.co.jp/kouen_kako/chirashi/100_81/81_daredesyou.html

 

今晩は愛して頂戴ナ

今晩は愛して頂戴ナ

  • 出版社/メーカー: ビデオメーカー
  • 発売日: 2004/08/25
  • メディア: DVD

↑印象的な劇中歌「耳」の原曲、「ミミ」(リチャード・ロジャース作曲)が収録された作品。


nice!(14)  コメント(31)  トラックバック(1) 
共通テーマ:演劇

nice! 14

コメント 31

リンク先の「こまつ座」サイトを見て来たら、かなり延期になったのですね! ちょっとビックリしましたが、チヨロギさんの行く日には間に合って良かったです☆ (^-^)
今回のお芝居は、時代背景からしましても、興味がそそられますが、家の母達の年代の方は、さぞ懐かしく思われるのでしょうね。
自分探しの旅、というのも興味深くて、当時でしたら辛いものが多かったことでしょうね。自分探しは、いつでも辛いのでしょうが・・・。
昨日のニュースは知らなくて、今知りましたが、放送の自由を侵害していますね。ジャーナリストとしての誇りは何処へ行ったのかと問いたいです。
by (2007-01-31 03:19) 

shikayu

メディアがどこまで「自由」なのか、またその「自由」の基準は何なのか、
ずっと続くのでしょうね、これって・・・
新聞記者になりたくて、浪人していた私。。こういった問題が取り沙汰される度に、何かを表現することって、難しいことだなーと思います(_ _)。。o ○
・・・ジエイさんは本当にいろんなところにでてらっさるんですね(´▽`)
1度、シーで拝見したことあります!朝のディズニー番組担当してらっしゃる頃・・・TV撮影してらして・・・かっこいいな~と思いましたヽ(*^○^*)ノ
by shikayu (2007-01-31 08:02) 

柴犬陸

これは新作なので、私もかなり心配しながら、チケットを取りました。
2月の終わり近くに観劇予定です。
蔵之介の芝居も何度か観ています。
彼はもともと舞台の人間ですので。
今回、楽しみにしています。
そういえば、井上ひさし作の「薮原検校」(蜷川演出)も上演されますね。
新作ではないようですが。
by 柴犬陸 (2007-01-31 14:11) 

チヨロギ

◇saraさん◇
そうなんですよー。もう、ハラハラというか、わくわくというか。ある意味、初日がこんなに待ち遠しかったのは初めてかも(笑)
煙に巻くようなタイトルですが、この「私はだれでしょう」、おっしゃるように現代にも通じるテーマですね。
共通して言えるのは、自分の居場所は誰かに見つけてもらうものではなく、自分で創るものだということ。「私は誰でありたいか」ということを考えさせられました。
29日の判決は、ジャーナリズム全体に関わる問題だと思います。介入や圧力そのものより、過剰に自主規制する傾向があることが何よりも恐ろしいです。メディアは自分で自分の首を絞めている気がしてなりません。
by チヨロギ (2007-01-31 15:29) 

チヨロギ

◇shikayuさん◇
たしかに言論の「自由」というのは諸刃の剣かもしれません。使い方を間違えれば大変なことになりますし。
なんと、shikayuさんは記者志望でいらしたのですね。
最近は新聞の報道も肝心なところでは及び腰で、時々情けなくなります。このままだとますます新聞離れが進みそう。
川平さんはよかったですよー! いつもは超ポジティブシンキング・マン(@オケピ)なイメージですが、今回は太郎くんの不安や哀しみが伝わってきて、いとおしくなってしまいました(*^o^*)
by チヨロギ (2007-01-31 15:30) 

チヨロギ

◇氏さん、はじめまして。nice!をありがとうございます。
by チヨロギ (2007-01-31 15:31) 

チヨロギ

◇柴犬陸さん◇
私もチケットの第2希望は、2月の終わり頃だったんです。そしたら柴犬陸さんとお会いできたかも♪
みなさんの息もぴったり合って、きっといい頃合ではないでしょうか(^.^)
蔵之介さんは舞台でもテレビでも、ほんとに活躍していますよね。
小劇場系にまったく疎いので、TVドラマでしか観たことがなかったのですが、また別の舞台も観てみたいなと思いました。
そうそう、「薮原検校」も観たいんですよねー!
でもすっかり出遅れてしまって、一般販売で撃沈しそうな予感・・・(T_T)
by チヨロギ (2007-01-31 15:32) 

こまつ座、すごいむかしに行ったきりです。そのときも二回ほど延期しましたね。演目は違いますが、ちょっと懐かしく拝見しました。
by (2007-01-31 15:38) 

たかち

この作品は書き下ろしだったんですね!
すでに出来上がってた脚本ではなかったんだ。
by たかち (2007-01-31 16:08) 

noric

生で観たいですね。
by noric (2007-01-31 19:09) 

チヨロギ

◇cocoa051さん◇
まあ、やはり再延期だったんですか?(笑)
さすが本家・遅筆堂主人ですね。
今回、とにかく幕が開いたので、ほっとしています。
by チヨロギ (2007-01-31 22:37) 

チヨロギ

◇たかちさん◇
そうなんです!
井上先生の場合、新作は非常にリスクが高いというのがよくわかりました^^;
でも、いいお芝居でしたよ~。
by チヨロギ (2007-01-31 22:37) 

チヨロギ

◇noricさん◇
2月の平日でしたら、まだ席が若干残っているようですので、よろしかったらぜひ♪
by チヨロギ (2007-01-31 22:38) 

kakora

チヨロギさん、間に合ってよかったですね。
見たいんですよね。ちょうど浅野ゆう子さんがTVで
今度お芝居でアナウンサー役をすると聞いていたので
気になっていた作品。佐々木蔵之介さんも出ているし・・・(^^;)
そういえば、井上ひさしさんは 隣町の川西町の生まれなので
川西フレンドリープラザ(←スィングガールズのロケ地でもある)では
よくこまつ座の講演もあるんですよ。
まだ見に行っていないですが(^^;)
あー久しぶりに「吉里吉里人」読みたくなってしまいました。(笑)
by kakora (2007-02-01 01:44) 

kakora

あはは、チヨロギさんもかなりのショコラ好きですね( *^艸^) エヘヘっ
先日は2200!ぽちっとしていただいて。。。
いつも ありがとうございます!
by kakora (2007-02-01 01:46) 

柴壱

長いお芝居でしたね。終演が遅くて、大丈夫でしたか?
思いがけずに、まだ「熟していない舞台」の観劇になってしまいましたよね。
でも、初日を2度延期してでも、最後まで拘りぬいて書かれたようで、
長いけどよかったです。
最初仮チラシの段階では、当然、浅野さんが主役? と思っていたのですが、
人気では、蔵之介さんがダントツ。
で、幕が開いてみたら、川平さんがいいポジションになってましたね。
思わず笑ってしまいました、私も。
蔵さまは、確かにスラリとしてカッコいいし人気者だけど、顔の大きさで
川平さんに負けてるなぁ…と思ってしまいました。

こちらからもTB送りました。
by 柴壱 (2007-02-01 02:05) 

柴壱

>kakoraさん
8月に、プラザで『円生と志ん生』やりますよ~!
私も、また行こうかなぁ…なんて、密かに思ってます。
by 柴壱 (2007-02-01 02:08) 

てつろう

見れて良かったですね♪

よく行く市川市の図書館に井上ひさしのコーナーがあり
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/shisetsu/tosyo/kyo/hisashi/prof.htm
こまつ座のパンフレットとか置いてあります
by てつろう (2007-02-01 02:52) 

チヨロギ

◇kakoraさん◇
なんとか間に合いました~^^;
浅野ゆう子さんは緊張気味でしたが、とても真面目に丁寧にお芝居なさっていたと思います。
蔵之介さんは意外と大きい方なんですね。私がテレビで観た時は江口洋介さんとか天海祐希さんとか、いつも大きい人と一緒だったから・・・(^-^;
川西町では公演以外にも、こまつ座主催の文化イベント「生活者大学校」が毎年開かれているようですね。
↑柴壱さんはそこの実行委員なんですよ~。
私も一度ぜひ行ってみたいと思っているのですが。

あ、2200も押していたんですね!
幸運のおすそ分けをいただいて、こちらこそありがとうございます(^-^*)
by チヨロギ (2007-02-02 00:10) 

チヨロギ

◇柴壱さん◇
TBありがとうございます!
正味3時間を超えていましたね。観ている時は全然長さを感じなかったのですが、終わってみたらほぼ10時。ルミネに寄って、スープとおにぎりを食べて帰りました(笑)
熟していないとはいえ、私は初こまつ座を大いに楽しみましたよ~。教えていただいて、心から感謝いたします♪
井上ひさしさんは、書きたいこと、伝えたいことが山ほどあったんでしょうね。これでもまだ書き足りないくらいに。
そうそう、「主役はだれでしょう」と私も思いました(笑)
おっしゃるように蔵之介さんは、舞台人としては小顔すぎるかも。いや、川平さんのキャラが強すぎるのか^^;
by チヨロギ (2007-02-02 00:11) 

チヨロギ

◇てつろうさん◇
はい、おかげさまで!
リンク先、さっそく見てみました。井上ひさしさんは市川にも長く住んでいたんですね。
市川を舞台にした作品がこんなにあるなんて、知りませんでした。
いつも情報をありがとうございます(^ー^)
by チヨロギ (2007-02-02 00:12) 

kakora

☆柴壱さん
あっわかりました(^^)

☆チヨロギさん
わーびっくりです。
たしか実家には井上靖記念館もあるんですよ。
つい最近まで親子であったとは知らなかったんですが・・・(^^;)
ウソでしょ~と言ってしまったほどで(^^;)

すごいご縁ですね。
by kakora (2007-02-02 08:25) 

チヨロギ

◇kakoraさん◇
井上ひさしさんの記念館というと、「遅筆堂文庫」ですよね。
これについても、柴壱さんがとてもお詳しいのです(^.^)
あれれ? 井上靖さんは北海道だったような・・・。
よく似た名前ですが、たぶん血縁関係はないはずです。

>柴壱さーん、そうですよね?(見てくれないかな~)
by チヨロギ (2007-02-02 14:31) 

kakora

チヨロギさん どっきりしました。
またやっちゃったかと思い調べて・・・

井上 靖(いのうえ やすし、1907年5月6日 - 1991年1月29日)は、
日本の小説家、詩人。北海道旭川市生まれ。
育ちは静岡県伊豆湯ヶ島(現伊豆市)と沼津市。・・・
それで記念館があるんですね。
よく載せている実家の海のちかくにあったのがそうだと思います。
(高校の時、この辺りを自転車で・・港湾にある天麩羅屋さんまで疾走していましたから・・・爆)
by kakora (2007-02-02 19:14) 

チヨロギ

◇kakoraさん◇
わざわざ調べてくださったのですね。お忙しいのに、お手数かけてすみません<(_ _)>
なるほどー、あのぐらいの方になるとあちこちに記念館が建つのですね。
でも若きkakoraさんのお目当ては記念館じゃなくて、天麩羅屋さんだったわけだ~。納得(^-^;
ともあれ、ありがとうございます!
by チヨロギ (2007-02-02 23:48) 

kakora

チヨロギさん あー昨日一緒に調べて書けばよかったんですが・・・
井上ひさしさんのプロフィールで、

井上靖と競った文学青年を父として・・・となってました。
ん?あれ、幼少時代、大変だったんださーと相方が言っていたのですが
違うんじゃないか!と疑いつつ、もう一度よーく聞いてみます。
相方は井上ひさしさんの「吉里吉里人」は絶賛していて、
よく読んでいますが・・・
つい最近 、エー親子??って会話したんですけどね
・・・うーむ、怪しいです。(何度もごめんなさい・・・汗)
by kakora (2007-02-03 07:06) 

チヨロギ

◇kakoraさん◇
「・・・と競った」ということは、本人ではないですねー。
私もWikipediaで調べてみました。
「5歳で父と死別し、義父から虐待を受ける」とありますから、
「幼少時代、大変だった」というのは本当の話。
でも井上靖さんは実父でも義父でもなさそうですσ(^_^;)
おかげで私もちょっとだけ、井上ひさしさんに詳しくなったかも?(笑)
by チヨロギ (2007-02-03 21:09) 

チヨロギ

◇かのとさん、nice!をありがとうございます♪
by チヨロギ (2007-02-03 21:11) 

チヨロギ

◇土方歳三さん、nice!をありがとうございます。
by チヨロギ (2007-02-11 21:13) 

ぱふ

チヨロギさん、TBありがとうございました!
私は何しろ今頃観たので、出演陣はかなりこなれてる感じでした。
でも、初日~2日目あたりのハラハラも、参加してるみたいな気分に
なれて面白いですね。私は、過去のこまつ座公演で、役者が
セリフを度忘れした時、静まり返った舞台と客席が一体となって
その役者さんがプロンプターの声で記憶を取り戻し
息を吹き返すのを待ったことがあります。すごく緊張しましたっ!
by ぱふ (2007-02-25 02:21) 

チヨロギ

◇ぱふさん◇
こちらこそご訪問ありがとうございます!
そうですか、やはりみなさん緊張感もとれて、いい仕上がりになってきているんでしょうね。
こちらもハラハラをひっくるめて、初こまつ座を楽しんでまいりました。
しかしセリフの度忘れの現場は緊張するでしょうね! その時も台本執筆が遅れていたのかしら?
そういう舞台と客席の一体感、一度味わってみたいような気もします。
心臓に悪そうですが(笑)
by チヨロギ (2007-02-26 02:49) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。