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ナイロン100℃「神様とその他の変種」@本多劇場 [theatre]

この芝居のタイトルになっている「神様とその他の変種」(Gods and Freaks)とは、
もともとケラ&ザ・シンセサイザーズが2007年にリリースしたアルバム、「15 ELEPHANTS」の1曲でした。


フィフティーン・エレファンツ

フィフティーン・エレファンツ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: インディーズ・メーカー
  • 発売日: 2007/03/28
  • メディア: CD
解説によると、象をモチーフにした15曲が収録されているそうな。(Amazonで試聴できます)

余談ですが、それより17年前の1990年。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)プロデュースによる「ヤマアラシとその他の変種」が発売されてます。
斎木しげるやら温水洋一やら巻上公一やら、やけに豪華メンバーが参加してのオムニバス盤。
コントあり歌ありの、くだらなくも楽しい一枚となっています( ̄ー ̄)


ヤマアラシとその他の変種

ヤマアラシとその他の変種

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ブリッジ
  • 発売日: 2007/11/23
  • メディア: CD
※これは2007年に再発売されたもの。

さらにもうひとつ余談。
一風変わったこのアルバムタイトルは、同じく90年発売の『レイモンド・カーヴァーの子供たち』という
アンソロジーに収められた、エミリー・リストフィールドという作家の短編のタイトルでもあります。


レイモンド・カーヴァーの子供たち

レイモンド・カーヴァーの子供たち

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1990/04
  • メディア: 単行本

この短編集にカーヴァー自身の作品は入っていないけれど、
当時のKERAがカーヴァーの作品にも親しんでいたことは間違いない・・・はず。
(その理由は、柴犬陸さんのこちらの記事に)
カーヴァーといえば、日常の中の孤独や悲しみ、ささやかな救いを描く短編の名手。
では、今回KERAが描いた作品は?



パンフレット表紙より

[data]
NYLON100℃ 33rd SESSION「神様とその他の変種」
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:犬山イヌコ、みのすけ、峯村リエ、大倉孝二、廣川三憲、長田奈麻、藤田秀世、植木夏十
 水野美紀、山内圭哉、山崎一
東京公演日程:2009年4月17日~5月17日(下北沢・本多劇場)
上演時間:1部1時間20分、休憩10分、2部1時間30分



物語は、小学生のサトウケンタロウ(みのすけ)と、その両親(峯村リエ、山内圭哉)と祖母(植木夏十)が住む、
3階建ての古びた洋館が舞台。
家庭教師として雇われた女(水野美紀)は記憶喪失で、憶えているのは自分がかつて小学校の教師だったということだけ。
学校でいじめを受け、不登校になっているケンタロウの話し相手は、家の目の前にある動物園の動物たち。
そこに動物園の飼育係のユウチャン(大倉孝二)や、ケンタロウの担任教師(藤田秀世)、
わが子がケンタロウに殴られたといって話し合いに来たスズキサチオの両親(犬山イヌコ、山崎一)、
おしゃべり好きな隣家の主婦(長田奈麻)らが次々とやってきます。
ところが、ケンタロウの母親との話はまったくかみ合わないばかりか、なぜか訪問者が次々と行方不明になっていき――。

という、ちょっとサスペンスタッチの話なんですが、後半は思わぬ方向に話が展開します。
どこかバランスを崩した登場人物一人ひとりの想いがじわじわと伝わってきて・・・。
なんていい脚本を書くのでしょう、KERAという人は(´;ェ;`)(涙)

わが子を守りたい一心で暴走していく母親と、あまりにも不器用なやり方で彼女を守ろうとする夫。
峯村リエと山内圭哉の夫婦が、キャラクターも演技もすごくよかった。
前半と後半で状況ががらりと変わってしまう、犬山イヌコと山崎一のスズキサチオ両親。
幸せな親であるということを唯一の支えにしてきた二人の、途方に暮れる姿を見ると、
人間はなんともろくて不完全な生き物なのだろうと、切なくなります。
それは水野美紀演じる家庭教師も同じこと。

といっても、重くて暗い話なわけじゃないんです。
登場するたびに浮きまくるさぶい「神様」(廣川三憲)も出てくるし(笑)
ナンセンスコントみたいな笑えるシーンを随所にはさみつつ、人間存在の危うさをあぶりだしていく、
その緩急のつけ方が抜群。
音楽の使い方もカッコいいなぁ、好きだなぁと思ったら、音楽が「どん底」と同じ朝比奈尚行でした。なるほどね。
(「どん底」の観劇記事は、こちら。彼は俳優・あさひ7オユキとして出演もしています)

別役実の不条理劇の文体をマネしてみたい、とKERAはパンフレットで語っていて、
どうやらカーヴァーの小説とのつながりはなかった模様( ̄ー ̄;
ただ、不条理劇という印象でもなく、そんなジャンル分け自体からはみ出している気もします。

カーテンコールは3回、ほんとはもっと拍手したかったけど、
演出上の理由で役者さんたちが風邪引きそうな状況だったので、あきらめました。
3時間の長さをまったく感じさせない舞台。もうしばらく観ていたかったな。

◆◆◆◆

ところで、劇場に行くとかならず配られるのが、大量の演劇チラシ。
この日も、約80ページにおよぶ大判パンフレット(2000円)との相乗効果で腰にきそうなくらい(苦笑)、
たっぷり受けとりました。
東京を拠点にする劇団の数の多さにも驚くし、もっとびっくりなのがチラシの紙質のよさ。
いったいいくらかかるんだろう・・・なんていうのは余計なお世話ですが。

最近読んだKERAの『映画嫌い』という本の中に、チラシの話が出てきます。
彼が監督した映画「罪とか罰とか」の宣伝チラシはメインが10万枚、マニア向け(「黒リコ」というらしい)が2万枚、
合計12万枚刷ったそうですが、その少なさに監督びっくり(/・ω・)/
ナイロンのチラシなんか、いつも十五万枚とか二十万枚とか刷ってるのに。チラシを十二万枚しか刷らないのに全国動員目標十五万人っていうのもよくわからない(笑)。演劇の場合は最低でも動員の十倍ぐらいはチラシ刷るからなあ。(『映画嫌い』183ページ)

演劇の場合はチラシの宣伝効果が大きいと思うし、観客にとっても大事な情報源だけれど、
映画はテレビとかネットとかで情報仕入れることが多いわけで。
とはいえ、動員目標人数よりチラシの枚数が少ないって、やっぱり不思議。


映画嫌い

映画嫌い

  • 作者: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2009/03/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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コメント 29

チヨロギ

◇もものあさん、nice!ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-06 18:34) 

柴犬陸

リンク、有難うございます。
この作品、連休中に観劇しました。
チヨロギさん同様、「神様」が気になりましたが(笑)、彼が居るおかげでスムーズに芝居に入れたというか、うまい導入部だと思いました。
予想を裏切る展開が続いて、面白かったです。
最後のシーン、あれって全部を水に流すっていうのかしら?
許すというのか、なかったことに、っていうのか?
そのあたりも気になりました。
きっと、KERAは観る側が勝手に想像すればいい、と思ってるでしょうね。^^
by 柴犬陸 (2009-05-06 20:17) 

きむたこ

どちらもジャケットのイラストがかわいぃ♪
by きむたこ (2009-05-06 21:42) 

チヨロギ

◇U3さん◇
はじめまして。ご訪問ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-06 23:38) 

チヨロギ

◇柴犬陸さん◇
こちらこそありがとうございます。やはりもうご覧になったのですねv
「神様」、あれはいったい何なんでしょうか(>▽<;;
でもあの軽~い存在感は計算ずくなんでしょうね。
それと下着姿で出てきた女の人、あれにはどういう意味が?(笑)
最後の雨のシーンは、私も気になりました。
あの瞬間感じたのは、世界がくるっと反転したようなイメージです。
それが神と人間なのか、人間と動物たちなのか、
あっち(舞台)とこっち(客)なのかはわからないんですけど。
いろいろ解釈できるところがおもしろいですよね。
こういうラスト、私はけっこう好きです(o ̄ー ̄o)
by チヨロギ (2009-05-06 23:42) 

チヨロギ

◇きむたこさん◇
それぞれにウマヘタな感じで、印象的ですよねv
by チヨロギ (2009-05-06 23:44) 

チヨロギ

◇いっぷくさん、nice!ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-06 23:47) 

sara

興味深いデータですね。演劇のチラシを見る方は、ファンの方に限られるって事かな?
それにしても、ケラーノさんの人気の高さには脱帽してしまいますね。(^^)
映画の場合は、シネコンなんてショッピンクセンター内にあったりするので、チラシは大量に無くなるでしょうし。映画は大衆的だけど、その中でいくつかの作品しか観ませんものね。だから宣伝費がかかる!とも言えますね。
>演出上の理由で役者さんたちが風邪引きそうな状況だったので、あきらめました。
どのような演出だったのでしょう? 気になる展開で、興味深々です。(^-^)
by sara (2009-05-07 00:11) 

kissk

我が農園でもチラシ作らなくては^^;
by kissk (2009-05-07 08:06) 

Yuseum

動員目標人数よりチラシの枚数が少ないって面白いですね。
(まさか、紙の節約・・・ではないだろう^_^;)
by Yuseum (2009-05-07 20:58) 

チヨロギ

◇saraさん◇
メジャーな劇場や劇団の芝居は、こちらが努力しなくても情報が入ってくるんですが、
マイナーな芝居は私の場合、演劇チラシで初めて知ることが多いんです。
映画はどうなんでしょう。もし映画ファンがチラシを読んで検討するのなら、
もっともっと大量のチラシを刷る必要がありますよね。
「神様と・・・」の最後の演出、上のレスにも書きましたが、ヒントは「雨」ですv
by チヨロギ (2009-05-08 01:04) 

チヨロギ

◇janviermさん、nice!ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-08 01:04) 

チヨロギ

◇向日葵さん、nice!ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-08 01:04) 

チヨロギ

◇ハーボット好きさん、nice!ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-08 01:04) 

チヨロギ

◇kisskさん◇
チラシは大事ですよね。ぜひインパクトのあるチラシをお願いしますv
by チヨロギ (2009-05-08 01:05) 

チヨロギ

◇Yuseumさん◇
紙の節約・・・もしやeco検定?!(笑)
だったらいっそペーパーレスにしたほうが( ̄ー ̄;
by チヨロギ (2009-05-08 01:05) 

チヨロギ

◇greensさん、nice!ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-08 01:05) 

ゆううこ

タイトルと >登場するたびに浮きまくるさぶい「神様」
この2つがモンスターエンジンの神様ネタ(このネタ好きです)
がどうしても頭の中を占領して、お笑いと同時進行でチヨロギさんの
文を読んでしまった無礼者です(汗
こういったはみ出した?ものは好きです。おもしろそう!

巻上公一、ヒカシュー懐かしいなぁ。レコード(CDじゃないよ)
「うわさの人類」持ってた(笑
by ゆううこ (2009-05-08 13:50) 

チヨロギ

◇ゆううこさん◇
おぉ! その神様はかなり近いかもしれない(笑)
見た目はもうちょっと小汚いんですけどね~ゞ( ̄∇ ̄;)ヲイ
話はシリアスなのに、笑ってばかりの舞台なんです。
はみ出し好き(なんだそれは)なゆううこさんに、兆おすすめ!

ヒカシュー聴いてましたか! さすがだ~(謎
私もレコード世代なんですけど、もっとミーハー路線だったので...( ̄ー ̄;
by チヨロギ (2009-05-09 12:13) 

チヨロギ

◇漢さん◇
はじめまして。ご訪問ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-09 12:15) 

Morimo

「有頂天」。。。好きでした。若い頃ヘタなバンドで心の旅をカバーしたものです。
by Morimo (2009-05-09 20:34) 

チヨロギ

◇snoritaさん◇
はじめまして。ご訪問ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-09 23:13) 

チヨロギ

◇エイジさん、nice!ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-05-09 23:13) 

チヨロギ

◇Morimoさん◇
Morimoさんが「有頂天」をカバーされていたとは、ちょっと意外でした。
「心の旅」といえば、高校の文化祭で友人のバンドが歌っていたっけ。
もっとも、チューリップのほうですけど(笑)
by チヨロギ (2009-05-09 23:23) 

柴壱

芝居でもらうチラシを見て切符を買う、っていう人、結構多いですよね。
私も、その一人ですけど(^^ゞ
このところ、「ムサシ」以来見ていないので、「切符を買うこと」自体と
ご無沙汰しています(笑)
そういえば、映画のチラシっていうのは、積極的に手に入れようとしなければ、
ほとんど手元に来ないものですね。
by 柴壱 (2009-05-10 00:03) 

チヨロギ

◇柴壱さん◇
チラシを見て「おっ!」と思ってチケット買うこと、よくあります。
それで大当たりだったりすると、もう有頂天です(≡ ̄ー ̄≡)♪
「切符を買うこと」については、私もこのところ途絶えてますね。
ということは、夏ごろに日照り状態になっちゃうのかなー。おたがいに(笑)
映画のチラシは、映画館に行ってもほとんどもらったことがありません。
そもそも、どこに置いてあるかもわからないし・・・( ̄ー ̄;
by チヨロギ (2009-05-10 23:34) 

aya

薄ら寒いかと思いきやあったかくて、苦しくつらいかと思いきやくっだらなくっ
て…と、表裏一体を強く感じる作品だな~と思いました。
さいたまゴールドシアターも見に行くつもりです^^
by aya (2009-05-20 15:15) 

チヨロギ

◇ayaさん◇
そうでしたね。こちらが何かの意味を読みとろうとするたびに、
そこからするりと逃げていくような感触があって、その外し方が絶妙でした。
「アンドゥ家の一夜」、わたしも観る予定です♪
by チヨロギ (2009-05-21 00:15) 

チヨロギ

◇Kimballさん、nice!ありがとうございます。
by チヨロギ (2009-06-23 03:23) 

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